研究課題/領域番号 |
19K22996
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
井上 貴恵 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (70845255)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | スーフィズム / イラン / 神秘主義 / イスラム |
研究実績の概要 |
申請者は2019年度、まず「ルーズビハーンとイブン・アラビー思想の近似について存在論的観点から更に検討を加える」という1つ目の研究目標に基づき、博士論文の要旨を日本中東学会年報に投稿した。博士論文自体は日本語であるため、英語での博士論文要旨の発表を行うことで、今後広く本研究の成果を発表していく際の契機としたい。また、「教団研究とスーフィズム思想研究をスーフィズム史として統合する端緒を得る」という研究目標に従い、特にメウレヴィー教団について研究を行った。その研究結果を日本オリエント学会第61回大会にて「陶酔系スーフィーとその倫理性―シャムセ・タブリーズを中心に―」と題し、まとめた。また、同様にメウレヴィー教団研究に関連して、『イスラム思想研究』第2号にスルタン・ヴァラド著『マアーリフ』の翻訳を投稿した。以上の研究成果において特に留意したのは、教団の始祖と、実質的な教団運営者との思想的な影響関係の様子を詳らかにするという点であった。現段階までの研究の結果として、メウレヴィー教団に関しては、教団の思想的源泉が有している思想的な傾向を、教団運営者であるスルタン・ワラドが適宜解釈を行うことにより、教団に対し何らかの利が生ずるよう上手く教導を行っていたという事実である。メウレヴィー教団に関しては教義の源泉となる過去のスーフィーの思想には特に強く教導が謳われた形跡はなく、教団運営者の代になってから師弟の教導関係をより強化したのである。スーフィズム思想を教団の方法論として取り込む際に、教導の精神が強く運営者側に意識されていたということは、スーフィズム思想を現実世界に具現化する際の運営者側の思想的葛藤の跡として非常に興味深い。申請者は、更にその他のスーフィー教団に関する研究のためにカイロにて資料収集を行った。今年度は収集した資料を参考に、本研究の目標を達成すべく研究を進めていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は当初の予定通りルーズビハーン思想とイブン・アラビー思想との連関を手掛かりに、イラン・スーフィズムの伝播の様子を徐々に研究成果としてまとめ上げている。去年度はこれまでの研究でにおいては手薄であった、スーフィー教団という視点からのスーフィズム思想に関する研究を重点的に行ったが、当初予想していた以上にスーフィー教団とスーフィズム思想史との関係性については未だ研究の余地があることが判明したことから、今年度も引き続きスーフィズム思想とスーフィー教団について研究を行っていきたい。特に今年度の研究成果としては、スーフィー教団におけるスーフィズム思想に基づく教義形成の様子がある。今年度はメウレヴィー教団について研究を行い、師弟関係の強化の様子を明らかにしたことで、教団がスーフィズム思想を教義として取り込む際に特に「集団」への利を重視していた点が明らかになったことは今後の研究を更に加速させる重要な発見であった。 ただし当初予定していたイランへの渡航が政情不安により延期されたため、イラン、及びトルコでの資料収集は今年度へ持ち越しとなった。またイランで国際学会に参加予定であったが、こちらもコロナの影響で中止となったため、当初の予定以上の進捗とはならなかった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は本研究の研究目標の2つ目である「イブン・アラビー以降のイブン・アラビー学派の思想とルーズビハーン思想との連関」に関し研究を行いたい。ルーズビハーン以外のイラン的と目されたスーフィーのうち、イブン・アラビー思想との関わりに関し重要と考えられる、アッタール、アフマド・ガザーリー、の文献を講読し、またイブン・アラビー学派に属する、イラーキーのテクストについても取り上げたい。特にイラーキーはルーズビハーンへの直接の言及を行っており、ルーズビハーンの愛の思想について論を展開している。イブン・アラビー以降に発展したイブン・アラビー学派とルーズビハーン思想、スーフィー教団との連関に関しても、こうした文献から更に指摘を行う余地があり、今年度は重点的に研究を進めたい。また「教団研究とスーフィズム思想研究をスーフィズム史として統合する」研究に関しては、引き続きスルタン・ワラドのテクスト解釈を行い、メウレヴィー教団におけるスーフィズム思想の教団教義の過程を明らかにしたい。今年度は特に去年度行うことの出来なかったイラン、及びトルコでの資料収集及び、国際学会での研究成果発表を実施したいと考えている。今後の状況を見ながらこれらの研究発表についてはどのような方法を取るか判断を行いたい。
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