本研究は、20世紀前半期のフランスの国立ゴブラン製作所において、所長ギュスターヴ・ジェフロワの指揮下で行われたタピスリー近代化への刷新運動に関する考察を通じ、美術行政主導の「公的美術」の形成の一つのあり方を明らかにしようとするものである。とりわけ中核的な位置を占める連作「フランスの諸地域と諸都市」の制作プロセスや、製作所内の諮問期間である「ゴブラン審議委員会」の役割に着目し、起用された下絵作家が当時の美術界の「前衛」ではない傾向にあることや、製作所の運営が必ずしも所長の独断で遂行されるものではない点等を考察した。
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