研究課題/領域番号 |
19K23001
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
高木 駿 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特任講師(ジュニアフェロー) (90843863)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 美学 / 哲学 / カント / 醜の美学 / 感情 / 認識論 |
研究実績の概要 |
2019年度は、『判断力批判』における不快の感情の種類に基づき、不快の感情に基づく醜さの類型化を行った。まずは、『判断力批判』第一部「美的判断力の批判」の箇所を丹念に分析し、不快の感情と醜さの類型化を行った。不快の感情の種類には、気持ち悪さなどの生理的な不快、悪などの道徳的な不快、崇高に関わる不快、それらと関連しない単なる不快が見出された。これらの不快の感情を種別化したうえで、それぞれの不快に応じた醜さの分類を行った。醜さは、生理的醜さ(生理的不快に対応)、道徳的醜さ(道徳的不快に対応)、崇高の醜さ(崇高に関わる不快に対応)、純粋な醜さ(単なる不快に対応)に分類された。つぎに、カント美学だけにとどまらない美学一般に関する研究(Henderson, 1966, Kolnai, 2004, etc.)を調査・参照し、カント美学から類型化された醜さが美学一般においても妥当するかどうかの検証を行った。その結果、カント美学から導かれる醜さの種類は美学一般の文脈からも指示できることが明らかとなった。これらの研究のうち、崇高に関わる不快の感情についての研究は、日本カント協会第44回学会において口頭発表を行い、同学会機関誌に掲載されることになった(2020年度刊行予定)。2019年度末に、ドイツヒルデスハイムにおいてドイツの若手研究者とともに「感情、身体」についてのコロキウムを開催する予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い中止となってしまった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度に予定していた、『判断力批判』における不快の感情の種類に基づき、不快の感情に基づく醜さを類型化するという研究計画をおおむね遂行できたので、研究は、おおむね順調に推移していると言える。ただし、すべての不快の感情と醜さとを、論文化するほど詳しく分析できたとも言い切れないので、その点については、今後の課題とする。また、新型コロナウイルスの感染拡大にともない予定されていた研究会や学会集会などが中止となったため、成果発信については、不十分であったとも言える。とくに、研究進捗にとっては、2019年度末にドイツヒルデスハイムにおいて若手研究者とともに開催を予定していた「感情、身体」についてのコロキウムが中止となったことが、意見交換や批判の機会を失ったという意味では大きかった。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の進捗状況が順調であったため、2020年度の推進方策については、申請時から変更はない。2020年度は、類型化された醜さ全体の体系性を、それぞれの醜さに共通する視点から究明する。まずは、種々の醜さに共通する特徴ないし構造を明らかにする。つぎに、『判断力批判』が主題とする感情に関わる能力、つまり「構想力(想像力)」を基軸に、構想力と他の能力(感性、悟性、理性)との様々な連関が、種々の不快の感情に相関することを示す。これにより、別種の不快の感情および醜さは、一つの能力の下に説明され、醜さ相互の共通性、関係性、そして体系性が明らかになるはずである。研究成果は、適宜所属学会にて報告し、学会誌や紀要などに発表する。さらに、3月には、2019年度に引き続き、ヒルデスハイムにて若手研究者とともに「美的なもの、現象」についてのコロキウムを開催し、研究発表および意見交換を行う(2019年度に予定していたコロキウムが中止になってしまったので、その際のテーマを扱う可能性もある)。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、開催予定であった研究会・コロキウム・講演会が中止や延期になったため、その分の旅費・謝金が、2020年度に持ち越された。この持ち越し分については、コロナウイルスの収束の目処はたたないことから、オンライン会議・研究会・講演会の設備を揃えるために使用する。
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