研究課題/領域番号 |
19K23003
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
筒井 忠仁 京都大学, 文学研究科, 准教授 (20851322)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 岩佐又兵衛 / 村松物語絵巻 / 大英博物館 / チェスター・ビーティー・ライブラリー / 工房 |
研究実績の概要 |
初年度は、まず岩佐又兵衛の実作品の調査を行った。又兵衛の作品は各所に点在しており、国内では、福井県立美術館(福井)の所蔵品や個人所蔵の作品を調査した。また、国外では、チェスター・ビーティ―・ライブラリー(アイルランド)、大英博物館(イギリス)に行き、近代に入ってから流出したと思われる又兵衛作品の調査を行った。 併せて史料の捜索も行った。国立公文書館(東京)、国文学研究資料館(東京)、東京大学史料編纂所(東京)に伝存する各種資料を調査し、知見を得た。 これらの調査を踏まえて、研究を進めた。まずは、画家の伝記研究である。これは、近年疑義が呈されている彼の出自を史料から再検討するとともに、特に不明な点の多い前半期の画業について考察を行った。その成果は、福井県立美術館での招待講演(2020年1月)にて、「若き日の又兵衛-前半生の活動と作品-」と題して発表した。また併せて、かれの自筆の紀行文『廻国道の記』を精査して、彼の文学的素養を解き明かした。次に、画家の作品の再検討を行った。彼の作品の中には、和漢の故事からいくつかの題材を選び、それらを一つの屏風や絵巻のなかに交互に並立させて描いた雑種画題の作品群が存在する。これらの作品を雅俗の融和という新たな規範形成の観点から考察し、文学世界の動向と又兵衛の作品との結びつきを明らかにした。 本研究の目指すところは、その時代の美的規範の形成要因の一つである文学世界の動向が、作家の造形活動にどのように影響を与え、どのようにして作品へと結実するのか、そうした芸術的創造が生み出される場のダイナミズムを解き明かすことであり、時代の動向から見た新たな又兵衛像を提示することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルス問題が生じるまではおおむね順調に研究を進めていた。しかし、騒動によって、年度末に集中して行う予定であった調査がほとんど行えず、進捗に遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も同様に又兵衛の国内に所蔵される作品を調査するとともに、国外にある作品についての調査も行う。そして、前年度に行った作品調査と文献調査の結果を補完するために、岩佐又兵衛の伝記研究を進める。そこでは又兵衛の紀行文『廻国道の記』の本文をコンピューター上に取り込み、検索ソフトを用いて、典拠の同定を行い、その結果についての考察が行われる。次に、又兵衛の伝記に関する「浮世絵の祖」という伝承について考察するため、江戸中期以降の著作から、又兵衛に関する記事を収集する。そして又兵衛の創出した規範様式が、後の時代にどのように影響を及ぼしたかを明らかにする。さらに、近世初期に対する理解を深めるために、近年の歴史学及び文化史学の成果についての文献を渉猟し、知見を得る。これらのデータと、前年度の調査によって得られたデータとをあわせて考察し、まとめる。 ただし、新型コロナウィルスの関係でしばらく調査が行えない状況にある。実地調査は、社会状況を見ながら進めていくこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス騒動により、年度末に予定していた各種調査・役務支出が行えなかったため、次年度支出額が生じた。よって、当該年度に予定していた調査等は次年度中に行い、未使用額を使用することとする。
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