研究課題/領域番号 |
19K23005
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
朱 喜哲 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (50844908)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 言語哲学 / プラグマティズム / 倫理的・法的・社会的課題(ELSI) / 行動データ / society5.0 |
研究実績の概要 |
本研究では、二〇世紀後半における「プラグマティズム言語哲学」の中心的人物であるリチャード・ローティ(1931-2007)およびその影響下で「推論主義」を展開するロバート・ブランダム(1950-)らの文献的研究を念頭に、その社会実装に関わる課題を取り扱ってきた。それに際して、理論的研究とその社会実装に関わる応用的研究の両輪を推進してきた。両者に通じるのは、「理由による正当化」をコミュニケーションの中心に位置づける推論主義的な言語哲学アプローチという方法論を、現実に適用し、理論に適宜修正を加えるという営みである。 まず、理論的側面においては、近年急速に進んでいるアメリカ哲学史の見直しにも棹差しつつ、一九世紀末から二〇世紀にかけてのプラグマティズムの潮流の位置づけの見直しに取り組んでいる。ひとつには、従来ではいわゆる論理実証主義などを擁した分析哲学と敵対してきたプラグマティズムという旧来の描像が否定されつつある動向に関連して、分析哲学とプラグマティズムを統合的になった領域の再定義を進めている。また、他方でアメリカにおけるドイツ観念論からの連続性を再評価する動向もある。この二点にまたがって、プラグマティズム言語哲学を再評価する研究を共同で進め、またそれに資する重要文献の邦訳などにも取り組んでいる。 ついで、社会実装の側面においては、各種の「理由」に関わる意識データではなく、位置情報など行動データを用いたデータ・デジタルビジネスに関して、2020年の個人情報改正やCOVID-19対応も念頭に注目が高まっている「通知と同意」の問題を中心に、言語哲学アプローチからの貢献を行っている。これは現在、人文社会科学分野の役割として注目が高まっている「ELSI(倫理的・法的・社会的課題)」という領域設定にも関わっており、分野を超えての共創研究を推進している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19対応で予定していた各種学会や研究会の延期・中止などもあり、当初想定からするとアウトプットを出していくことがやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
理論的側面においては、言語哲学における推論主義アプローチとその社会実装に関わる観点からのアップデートに関して研究を推進し、学術出版、一般向け執筆などを進めていく。また、同分野の基礎的な文献の邦訳など、学術知の整備・普及に関わる研究についても本年度に成果を出すべく進める。 社会実装の側面においては、ELSI領域においてとくに新興でかつ重要性の高い、データビジネスに関わる分野を整備すべく、基本的な理論的道具立てや共創研究に関わるアウトプットを出していく。また、ELSI領域についてはリモートでのセミナー、シンポジウムなど市民社会および産業界への貢献についても実施していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた海外出張、開催予定研究会などがすべて COVID-19対応などで延期・中止になり、渡航費に関わる予算が使用できなかった。書籍購入などをやや増やしたものの、直近では代替用途を設定できず、2019年度については大幅に減少した。2020年度に振り替えての実施を検討している。
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