本研究においては、仏画上の本尊の周辺に描かれている四天王や二十八部衆、十六善神、十二神将などといった天部の諸尊のうち、人形および鬼形で武装した尊格を神将形として取り扱い、これらの諸尊間において、尊名に関わらず異なる尊格間で図像の転用・引用が行われ、図像の「形」のみが型紙のように扱われていたことを検討した。とくに経典などに尊名や像容が示されるが、現存作例によっては経典等の記述とは異なる像容で表される十六善神像および二十八部衆像を中心に検討を行った。 十六善神像においては複数の四天王像の組み合わせや、四天王と十二神将像の組み合わせなど、図像を構成するうえでのパターンがあり、型紙としての白描図像の作例が見出せた。 二十八部衆像は画中に尊名が記された細見美術館「千手観音二十八部衆像」と永観堂禅林寺「千手観音二十八部衆像」を基準とし、諸本の比較を行った。 仁王、四天王、梵天・帝釈天、婆藪仙・功徳天のほか阿修羅、迦楼羅、神母女など像容に特徴のある天部の図像は、その特徴が諸本間で共通し尊名の比定ができるが、それ以外の尊格についてはほかの四天王や十二神将、十六善神などには見られない図像もあり、これらの図像が何を典拠とするのか、さらなる検討が必要である。また尊名の明らかな図像においても、体勢から四天王図像にその尊格の特徴を付与するような形のものも見られた。 課題は多くあるが、今後神将形図像を検討するうえで基準となる成果は得られた。
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