本研究では、ドイツ人文主義の第一人者、コンラート・ツェルティスの『愛の四書』(1502年)挿絵のカタログ化を目指し、その意味内容を分析した。『愛の四書』とは、1500年頃のドイツにおける郷土意識の高まりを反映して、ドイツの風景を詩文と挿絵で賛美した書である。同書はドイツ人文主義者たちに受容され、ドイツの土地をはじめて包括的に称えた書として重要で、風景画に対する意識の醸成にも大きな役割を担ったと考えられる。ドイツでは1520年頃から純粋な風景画がみられることから、同書挿絵の意味を解明することで、ドイツにおける風景画成立の背景を探ることができると考えた。 『愛の四書』はドイツ各地に所蔵されており、挿絵にはドイツ独自の寓意的な表現がみられることから、2020年2月にドイツで次のような調査を行った。まず、『愛の四書』の各版を実見して、挿絵や刷りの状態の異同を確認した。各版を閲覧するために訪問したのは、ミュンヘン州立図書館、ルードヴィヒ=マクシミリアン大学図書館(ミュンヘン)、ゲルマン国立博物館(ニュルンベルク)、アウクスト侯爵図書館(ヴォルフェンビュッテル)である。その結果、各版の書き込みや刷りの状態、彩色の有無、含まれる挿絵の相違が明らかになった。 次にミュンヘンの中央美術史研究所で、16世紀ドイツの風景表現並びに寓意画や神話図像に関する資料を渉猟した。『愛の四書』挿絵には、ドイツの風景を表した地勢図に加えて、詩文に関連した神話図が見られるため、ツェルティスが参考にしたと思われるイタリアの作例と比較しながら、ドイツ独自の神話図像・風景表現としての意味を分析した。 この調査の成果は、来年度春に論文の形式で発表する予定である。具体的には『愛の四書』挿絵をまとめてカタログ化し、同書挿絵の図像学的意味を分析する。さらに同論文で『愛の四書』挿絵を風景表現の観点から考察するつもりである。
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