研究課題/領域番号 |
19K23010
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
向井 晃子 神戸大学, 国際文化学研究科, 協力研究員 (70848465)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 前衛書 / 日本近代美術 / 周縁 / 美術制度 / 戦後美術 / 伝統芸術 |
研究実績の概要 |
本研究は、美術制度に支えられなかった戦後前衛書の支援者あるいは支援状況を検討し、欧米とは異なる歴史と文化がある日本近代の美術史の特徴を、制度外から逆照射するものである。今年度は以下の調査と聞き取り、資料収集、研究発表を行った。 主な調査として、まず、前衛書の創始者的存在である上田桑鳩に関して、2019年10月、神戸の飛雲展で展示された上田の作品を調査し、上田の郷里の三木市で発見された作品約20点と、飛雲会会員所蔵の作品を実見した。また、同会場で現在の上田の生家の事情を知る飛雲会会員へ聞き取りを行った。加えて、同会場で兵庫県東条市を中心に活動する上田桑鳩顕彰会の運営者と面談でき、人的ネットワークを得た結果、11月に当該団体が東条市で開催する上田桑鳩展を調査でき、作品の実見と上田の出身地の状況の聞き取りができた。同じく11月には、上田が滞在制作を行い、記述にも残した寺である兵庫県三木市の方広寺へ調査に赴き、上田が文字を書いた梵鐘と記述に残した寺の庭を実見した。次に、2020年1月に京都国際会館での現地調査を行い、森田子龍の作品2点と篠田桃紅の作品3点の実見と、関連資料の閲覧、館員への聞き取りを行った。そして、前衛書と関連する展覧会である「秋の優品展-筆墨の躍動-」(五島美術館) 、「東西交流160年の諸相」(横浜美術館)等を調査して作品を実見し、国会図書館、東京国立近代美術館ライブラリー、大阪府立中之島図書館等で資料調査を行った。研究発表としては、上田桑鳩について、2020年2月に京都工芸繊維大学で開催された明治美術学会例会で口頭発表を行い、美術関係の研究者と情報を交換するとともに研究についての協力体制を取る土台を築き、近代日本画の研究者とは書と絵画を俯瞰して日本近代美術史を検討する必要性について意見交換を行って大きな成果を挙げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、上田桑鳩関係の調査が予定通り進展したことに加え、調査で得られた人的ネットワークから情報が寄せられるなど新たな協力も得られ、予定以上の調査の発展もあった。加えて、京都国際会館での森田子龍と篠田桃紅の作品調査と関連資料調査、館員からの聞き取りも予定通り実施できた。一方で、豊岡市での森田子龍の調査予定は、担当部署が秋から多忙となったため調査時期が繰り延べとなった。また、滝川市への調査は訪問日程を決定していたが、新型コロナウイルス蔓延の影響で延期となった。資料調査は一定の進捗を果たしたが、新型コロナウイルス蔓延のため公的機関が閉鎖されたことによる影響は受けている。延期となった調査等は次年度以降に計画する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進にあたり、以下の方策を考えている。 1.今年度実施できなかった豊岡市、滝川市と次年度に予定していた日南市での作品調査と関連資料調査、インタビュー調査の実施。2.今年度の調査から得られた上田桑鳩関係の新たな情報の確認、そこからの調査の必要性の検討と実施。3. 各調査の前後に、国会図書館や東京国立近代美術館ライブラリー等で補足の資料調査を行う。 また、新型コロナウイルスの影響について今後の見通しが不透明であることを踏まえ、今後の推進方策とに以下の対応を検討している。 1.作品調査は実見することが重要なため、新型コロナウイルスの感染状況等の事情によっては、研究期間の延長も視野に入れて日程調整を図る。2.インタビュー調査は、相手先が可能であれば、Webを使用したインタビューの実施を検討し、そうでなければ、メールや書面等、文書によるアンケートでの代替も検討する。3.新型コロナウイルス対策のため、これまでよりも面談等にWebの活用が増えることを鑑み、ハード、ソフト両面でのWeb、PC環境の整備を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、主に新型コロナウイルス蔓延の影響で予定通りに出張を伴う訪問調査が進まなかったことで予算の使用が進まず、次年度に繰越す使用額が発生した。進まなかった調査は延期することで受け入れ先とは合意しており、新型コロナウイルス感染状況との兼ね合いで日程等の調整を次年度に進め、訪問調査を行い予算を使用する計画をしている。
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