研究課題/領域番号 |
19K23012
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
川村 悠人 広島大学, 文学研究科, 准教授 (50739068)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | ヤースカ / ヴェーダ / サンスクリット / 語源学 / 神学 / 火神 / 雷神 / 太陽神 |
研究実績の概要 |
本研究は『語源学』第七章を主たる資料として、作者ヤースカが展開する火神論を明らかにし、往時の人々による世界理解の仕方について新たな資料と知見を提供しようとするものである。以下、(1)地上の火神(祭火)、(2)中空の火神(雷光)、(3)天の火神(太陽)に関わる研究成果について順番に述べる。 (1)地上の火神の名であるアグニに対してヤースカが与える二つの語源説明は、従来の研究で考えられていたようにそれぞれ個別のものと見るより、「火の行進」儀礼の中に現れる祭火アグニの二つの側面をとらえたものと見るべきであることを明らかにした論文を、George Cardona名誉教授(ペンシルベニア大学)の記念論文集に寄稿した。現在編集中である。この成果は、ヤースカが提示する複数の語源説明の解釈について新たな視点を提供するものである。 (2)ヤースカの神学体系において、『リグヴェーダ』に描かれる英雄神インドラは中空の火神である雷光と解釈されていることを明らかにする論文を『広島大学文学研究科論集』に発表し、それをさらに発展させた成果を日本歴史言語学会2019年大会にて発表した。これらの成果は、本来はそうでなかったインドラがいつどのようにして「雷霆神」と見なされるに至ったかという未だ解決されていない問題に対して、一つの視座を与えるものである。 (3)ヴァイシュヴァーナラと呼ばれる火神に対してヤースカが展開する広範な議論の要点を整理した成果を日本印度学仏教学会第70回学術大会にて発表した。この成果は、どの文化圏においても重要視される火という存在が古代世界においてどのような役割を果たしていたかを知る一つの資料を提供するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
大学の授業期間中には週に一回、授業期間外には週に二回、Paolo Visigalli准教授(上海師範大学)とのSkypeを通じた『語源学』読書会を開くことができ、当初の予定よりも早く本研究課題の最重要資料となる『語源学』第七章の全体を読解することができた。英語による訳注資料と日本語による訳注資料が手元に揃い、それらを基にして、ヤースカの神学の要点を詳述する序論を付した英語による訳注研究をVisigalli准教授との共著という形で海外誌Journal of the Royal Asiatic Societyに投稿することができた。現在査読が行われている。当該論文の出版をもって、本研究の目的は達成されると言ってよい。
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今後の研究の推進方策 |
ヤースカ神学の中核が現れる『語源学』第七章の読解と訳注資料の作成およびそれを基にしたヤースカの思想の抽出は完了した。次年度は、『語源学』以前のヴェーダ文献および『語源学』内の他章から関連する議論を収集、検討し、本研究のさらなる拡大と深化を目指す。加えて、学界の共有財産となるよう研究成果を公表すべく、神々の名に対するヤースカの語源説明の実際と彼の神学体系を明らかにする日本語書籍の出版を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、2019年度2月と3月に予定していた研究出張が全て取りやめとなったため、調整が間に合わず次年度使用額が生じるにいたった。この使用額はサンスクリット学に関連する必要な研究図書の購入にあてる。
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