申請者はこれまで A・N・ホワイトヘッド哲学の研究と、アナキズムの思想史について研究を行なってきた。これらの研究において、前者では「具体性」概念を中心に、諸存在の最も根源的なあり方について形而上学的な探求をしてきた。後者では「相互扶助」概念を中心に、諸存在が生存していくための方法、ないし知恵としてこの概念を析出して研究を行ってきた。 近年、世界的なホワイトヘッド哲学のさらなる展開として、社会思想、とりわけアナキズム理論での応用がなされるようになっており、申請者の研究もまた、この流れに与するものであると考えられる。社会の紐帯が失われ、諸存在の生存よりも資本主義的なあり方が優先されてしま うことで、社会そのものの崩壊や、諸存在そのものの消滅が、環境破壊だけでなく、社会や個人おいても取りざたされるようになっている現代にあって、これらの問題に対して、一石を投じ、また明快な回答が得られるものである。 というのも、「具体性」の位相で諸存在を捉えることで、その具体的な存在の生存戦略として「相互扶助」が検討されていくのはもちろんのこと、社会の紐帯となり得る「美的なもの」は、金銭そのものによって可能になるものではなく、人間の感性そのものが問われ、それに加え、倫理的な側面が問われることになると考えられるからである。こうした理由から、ホワイトヘッドの形而上学を前提としながら、より社会的な領域としてのアナキズムの知性を掘り下げ、そ して今後の展開として美学や芸術学、あるいはデザインの知や芸術制作の議論へと踏み込んで、 理論と実践双方にわたる哲学を、研究する。
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