研究課題/領域番号 |
19K23016
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
渡部 麻衣子 自治医科大学, 医学部, 講師 (60736908)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 合成志向性 / 超音波画像診断法 / 観察研究 |
研究実績の概要 |
初年度は、主に、研究体制の整備を行った。具体的には、日常的な研究活動のためのデスクトップPC、出張時に使用するラップトップ、プリンター、レコーダーを整備した。加えて、研究活動を発信するためのウェブサイトを外部委託にて構築した。 その上で、研究資料の収集と臨床における調査活動「超音波画像診断における医師と妊婦の発話の観察」を、自治医科大学附属病院産婦人科において開始した。調査を実施するにあたり、自治医科大学産科婦人科の高橋宏典准教授の協力を得た。研究は、自治医科大学の臨床研究等倫理審査委員会で審査を受け、受理された。(第臨大19-127)調査対象が妊婦であり、特に配慮を有するために、新型コロナウイルス感染拡大を理由に4月後半から調査を中断しているが、これまでに4件のデータを取得している。 加えて、「志向性」概念を研究するための研究会を立ち上げ、2週間に1度、約8名にてフェルベークの『技術の道徳化』の輪読会を行なっている。研究会はこれまでに4回行なった。この研究会では、『技術の道徳化』を読み進めながら、フェルベークの「合成志向性」を背景から理解し、この概念に先行するアイディの「技術的志向性」、ラトゥールの「アクターネットワーク」概念の差異を明確にし、合成志向性概念への理解を深めることにつとめている。 研究の途中経過は、Dubrovik International Bioethics & Science School(2019年5月18,19日)科学技術社会論学会(2019年11月19,20日)と応用哲学会(2020年4月25,26日:誌面開催)にて発表した。科学技術社会論学会での発表において、ジョン・サールの「集合的志向性」への接続を提案されたことは収穫であった。また、応用哲学会での発表を通して、「合成志向性」を検討するための事例を追加した。詳細は、進捗状況の報告で述べる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究に必要な機材が揃い、倫理審査で調査計画が受理され、フィールドでの調査を開始することができたので、概ね順調ということができるだろう。 フィールド調査では、超音波画像診断中の医師と妊婦のコミュニケーションを観察している。フィールドが地域の中核病院であり、対象が妊婦であることから、新型コロナへの感染拡大予防を優先して調査を中断した。そのため目標とするデータ数の取得には至っていない。しかし、医師の協力を得てフィールドを確立するまでには至ったので、初年度としてはほぼ十分と考える。また、「合成志向性」に関心を持つ研究者のグループを作ることができ、これまでに4回の開催を通して、今年度の目標であった合成志向性概念への理解を深めつつある。特に、フェルベークの合成志向性に先行する概念として、ドン・アイディの技術的志向性、ラトゥールのアクター・ネットワーク・セオリーとの差異を確認できたことは、今後の研究の進捗にとって重要と考えている。 2019年5月のDubrovik International Bioethics & Science School、11月の科学技術社会論学会では、研究の途中経過を報告した。STS学会ではサールの「集団志向性」概念との接続を提案され、現在考察を進めている。さらに、応用哲学会では、フェルベークの『技術の道徳化』の翻訳者である鈴木俊洋氏のセッションにおいて、「農業」をテーマとした発表を行った。(誌面開催)農業も、広い意味では、医療同様「生命」への「合成志向性」が生成される場であり、かつ、医療現場よりも多くのアクターが関わるために、より複雑な「合成志向性」が生成されていると思われる。そのため、農業における事例の検討を行うことで、合成志向性概念の理解を精緻化させることができ、翻って、超音波画像診断を用いた胎児への合成志向性の生成の分析に役立てることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず、自治医科大学附属病院産科において、高橋宏典准教授の協力を得て行っているフィールド調査を進める。目標データ数は100件である。この調査では、超音波画像診断中の医師と妊婦のコミュニケーションを観察し、発話を録音している。ただし、新型コロナウイルスへの感染予防が必須の現場であるため、今後の状況によってフィールド調査の内容を変更する必要の生じることも念頭に置いている。 次に、現在、科学技術社会論を専門とする若手8名で行なっている、合成志向性研究会を通して、合成志向性概念と先行概念であるアイディの「技術的志向性」とラトゥールの「アクター・ネットワーク・セオリー(ANT)」との違いを明確化させる。加えて、フェルベークの議論の欠落点を明らかにして、それらを埋める作業を進める。具体的には、昨年の科学技術社会論学会での提案を生かし、ジョン・サールの集合的志向性との接続を考えている。 また、応用哲学会での発表内容に関する論文の執筆を通しても、合成志向性概念の発展的、批判的な理解を目指す。この論文では、農業における合成志向性の生成を分析している。現在、分析的視座としてのANTの有効性を実感しているため、ここから、合成志向性へとつなげることが、今後の課題となる。さらに、精緻化した概念理解に基づいて、超音波画像診断における 胎児への志向性に関して収集したデータと資料の分析を行い、現在執筆中の論文を完成させる。論文は日英で3報にまとめる計画である。 さらに、初年度構築したウェブサイトの内容を充実させて、研究の進捗を広く伝える。加えて、書籍刊行に向けた準備を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の旅費を、大学で受給している研究費から支出したために、科研費支出分に余剰が出た。また、倫理審査に予定していたよりも時間がかかり、調査の開始がずれ込み、調査協力者への謝礼の支払いができなかったため余剰が出た。 今年度は、物品としては書籍を含めた資料、調査協力者への謝金、論文執筆のための校閲を主な支出対象とする予定である。旅費に関しては、今年度、新型コロナの影響により、学会が誌面開催となり、当初計画していた英国への調査出張もできない状況のため、支出は減ると思われる。代わりに、英語校閲等、執筆関連への支出を増額し、研究者との交流の機会に変えたい。
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