研究課題/領域番号 |
19K23020
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
張 名揚 実践女子大学, 研究推進機構, 研究員 (80850875)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 称名寺聖教 / 喫茶養生記 / 喫茶文化 / 密教 / 星供 |
研究実績の概要 |
栄西(1141-1215)は中国で禅を学び、その経験をもとに『喫茶養生記』という日本最古の茶の専門書を完成させたことから、中世の茶は禅宗と結び付けて考えられるのが一般的である。しかし、『喫茶養生記』には禅関係の記述が一切見られない。一方、「天」を茶で供養するという記述、および茶を「仙薬」と称することには、中世日本の密教関係の資料と関連が見られている。このことから、中世日本の喫茶文化の様相を明らかにするためには、禅宗だけではなく密教との関わりについても検討する必要がある。本研究は『喫茶養生記』の記述を手がかりに、喫茶文化と関わり深い神奈川県称名寺(真言律宗)の所蔵資料「称名寺聖教」について考察を加え、中世日本の喫茶文化と、密教を中心とした宗教との関わりを明らかにする。 密教では、茶を供物として捧げる対象の多くは、『喫茶養生記』にも言及される「天」に位置付けられる星宿である。そのため、今年度は文化庁文化財部美術学芸課編『称名寺聖教目録』に基づいて、「称名寺聖教」の星供に関する資料の紙焼きもしくは実物を確認しながら翻刻作業を行った。この過程において注目すべきは、数多くの資料では「茶」の字が「荼」の字と表記されたり、両者が混在したりしていることである。 すでに顧炎武(1613-1682)が論じたように、中国は中唐期以前、茶の字は「荼」の字に作られている。また周知のように、日本の喫茶文化は仏教とともに中国から伝来した場合が多い。「称名寺聖教」に見られるこの文字に関する現象は、中世日本に伝わる星供の儀礼と中唐期以前の宗教文化が関わる可能性があること、唐代密教儀礼のより具体的な様相を「称名寺聖教」によって補える可能性があることを提起した。 今後は中国の宗教・喫茶資料と対照しながら、引き続き「称名寺聖教」に見られる星供関係の資料を整理・翻刻し、密教における喫茶文化を全面的に考察していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年11月から2020年3月まで、「称名寺聖教」の管理機関である神奈川県立金沢文庫は休館し、以前に複写・閲覧したした資料しか利用できなかったことによって、研究には一時支障が生じた。 しかし、すでに入手した資料を考察したことで、密教儀礼を含めた唐代中国の社会文化と、中世日本の密教寺院における茶の利用との関連性を見出せた。この点において本研究は概ね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き文化庁文化財部美術学芸課編『称名寺聖教目録』に基づいて、「称名寺聖教」の星供に関する資料の紙焼きもしくは実物を確認しながら翻刻作業を行う。 また「称名寺聖教」を中心とした、供物としての茶に関するデータベースを作成し、より系統的に資料の整理および内容の分析を行う。 さらに称名寺以外の真言密教系寺院、もしくは天台密教系寺院に伝わる聖教と対照し、供物としての茶は中世日本にどのように認識されていたかについて考察していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査先(「称名寺聖教」の管理機関である金沢文庫)の休館により、調査の回数が予定した回数より下回った。よって、関連資料の購入・複写作業などにも影響が生じた。次年度に繰り越す経費を、(一)引き続き「称名寺聖教」を調査する際に必要な費用(二)「称名寺聖教」に関連する宗教文化資料を調査する際に必要な費用(三)関係書籍を購入する費用として使用する予定である。
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