研究課題/領域番号 |
19K23020
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研究機関 | 実践女子大学 |
研究代表者 |
張 名揚 実践女子大学, 研究推進機構, 研究員 (80850875)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | 称名寺聖教 / 喫茶文化 / 密教 / 星供 / 荼 |
研究実績の概要 |
今年度は引き続き「称名寺聖教」の星供に関する資料を確認しながら、中世日本寺院における喫茶文化について考察を行った。その成果として「「称名寺聖教」に見える「茶」と「荼」」という論文(『アジア遊学』252、2020)を発表した。 茶を供物として利用する密教儀礼のほとんどが、星供である。「称名寺聖教」の中にある多くの密教書には、「銭」「茶」「菓」が星供の共通の供物として記されている。「銭」「茶」「菓」は、唐末以前に成立したとされる密教経典でも星供の供物として指定されている。また、「称名寺聖教」に見える星供の一部資料において、供物の茶の形態は「煎茶」であると記されている。これも唐代の密教経典の記述と一致し、唐代の代表的な喫茶法、すなわち煎茶法で調理された茶のことと見て良い。さらに、中唐期以前に茶の異名として使われていた「荼」の字も「称名寺聖教」の星供関係の複数の写本に混在している。中国では喫茶の風習が盛んになったのは開元年間であり、これは密教が本格的に中国に伝来する時期と重なっている。そして当時の密教僧は、現在の我々が「茶」と呼ぶもの(以下、「チャ」と表記)を「荼」と称していた。「称名寺聖教」に見える密教星供の儀軌に「チャ」が「荼」と表記されているということは、日本密教の星供は唐代中国の作法を取り入れたということはもちろん、中国密教が中国当地の喫茶文化を受容し、中国密教独自の星供の儀礼を形成させる時期が、「荼」の字が使用されていた中唐期以前である可能性を提起することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年11月から2020年3月にかけて、「称名寺聖教」の管理機関である神奈川県立金沢文庫の休館に続き、2020年4月以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響で一時調査に支障が生じた。 しかし、これまで入手した資料と、文庫開館時に閲覧・複写した資料に基づく考察ができた点において、本研究はおおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
「称名寺聖教」の調査、中世日本密教寺院における喫茶文化の研究を継続すると同時に、茶を供物とする日本星供の祭祀対象、すなわち「仙」と称される星宿と山林に住むと思われる仙人との関係、それにかかわる「聖」の概念、そして中国の仙人や山林で修行する僧侶・道士の人物像など、星供の理論の形成について、日中思想文化交流の視点から考察を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、調査の回数が予定していた回数より下回った。これにより、経費の使用にも影響が生じた。次年度に繰り越す経費を、(一)引き続き「称名寺聖教」を調査する際に必要な費用(二)「称名寺聖教」に関連する宗教文化資料を調査する際に必要な費用(三)関係書籍を購入する費用として使用する予定である。
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