本研究は「大聖堂」に注がれた19世紀から20世紀初頭までの眼差しの諸相を問題とする。ヨーロッパでは「旅」は芸術作品の鑑賞体験と深く結びついてきた。「大聖堂」の価値が旅での眼差しを通してどのように見出され、当時の社会の文脈にどのように関連づけられるのかについて、テクストとイメージの分析から明らかにする。分析の対象としたのは、ピクチャレスク・ツアーからツーリズムへの過渡期における、イギリスの美術批評家ジョン・ラスキンと、ラスキンの影響を受けたフランスの作家マルセル・プルーストによる北フランスの旅である。「大聖堂」をめぐる近代の知性と感性のコンテクストを文化遺産の歴史に照らして浮き彫りにする。
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