研究実績の概要 |
プラトン哲学における自己知を研究するという目的にあたって、自己知の困難とその解決可能性を複数の対話篇にわたって探るという計画を立てた。今年度は自己知の困難を探ることに重点を置き、『イオン』と『カルミデス』の読解、研究を行った。 『イオン』に関しては、古代ギリシア社会で知識人として扱われていた詩人や吟唱詩人が、ただ狂気にとりつかれ自らの話す内容も理解せず、自分に対する認識をも欠いたものであり、かつ、それを受け取る聴衆の側も狂気の悪影響を受けているという問題を確認した。この主題について、本研究活動スタート支援採択前から研究を進め投稿をしていた論考を「狂気の伝達―プラトン『イオン』篇における詩人と吟誦詩人、そして聴衆―」として 『アリーナ』第22号, 中部大学編, 277-290頁で発表した。 また、自己知の問題を主要テーマとして含む『カルミデス』篇を詳細に分析するために、まず、その導入部分である箇所の分析を行った。そこでは、まず人間は病を治療する場合、例えば、目を治療する場合には頭を配慮しなければならないように、全体を治療しなければならないことが示唆される。それに加えて、人間において、身体が部分であり、魂が全体であるという、興味深いソクラテスの指摘がある。これは人間が自分自身の本体をいかに理解すべきかという問題を含んでいる。この点に関しての様々な論争を確認した上で、2020年2月に Holistic Medicine In Plato's Charmidesと題する口頭発表を、 14th London Ancient Science Conferenceにおいて行った。これは自己知にも通ずる、人間のあるべき自己認識、あるいは、自己への配慮の仕方を考察したものであり、さらには、『カルミデス』後半の自己知の分析を理解する上での準備となる。
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