研究課題/領域番号 |
19K23031
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
須藤 秀平 福岡大学, 人文学部, 講師 (40847406)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | フランス革命史 / 保守主義 / ロマン主義 / 保守革命 |
研究実績の概要 |
まずはフランス革命という現象をこれまでの思想家および研究者がどのように捉えてきたのかを、近年の革命史研究の動向とあわせて調査した。それにより、マルクス主義的思想史・経済史からアナール派による文化史へという歴史学の推移と重なる形で、フランス革命研究の手法も大きく変化してきたことが明らかになった。これに関するまとめと所見を福岡大学人文学部領域別研究活動報告会において発表した。 次に、フランス革命直後のドイツで発表されたフリードリヒ・シラーの美学思想と比較して、19世紀初頭のロマン主義における自由観について考察した。その中で、「遊戯」あるいは「劇」や「演奏」を意味するSpielの概念が、革命期とその後のロマン主義期とで大きく変化したことを発見した。その変化は、芸術が天才による自律的活動から受容者を含めた他律的・社会的活動へと変化した経緯と重ねて理解しうる。この成果となる論文を、日本アイヒェンドルフ協会『Aurora』第37号に投稿し、査読を通過した上で校正を済ませ、現在発行を待っている。 また、他大学の研究者との共同研究の場として、ドイツ保守思想研究会を立ち上げ、数度の研究発表会をおこなった。そのなかで、ドイツ保守主義に関する基礎研究に共同で取り組んだのみならず、ドイツに特有の現象とされる、20世紀初頭の保守革命についても、定期的に基礎文献を読み、その概要について発表した。また、保守革命に関する重要な基礎文献でありながら邦訳のないRolf Peter Sieferle: Die Konservative Revolution(1995) の共訳にも着手した。現在までに、序章にあたる20ページ分の翻訳を終え、今後推敲の上で福岡大学人文学部『人文論叢』に寄稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヨーゼフ・ゲレスの保守的思想の歴史的意義を明らかにすることを目的とした本研究を進めるにあたり、まずはフランス革命という現象が当時のドイツでどのように捉えられていたのかを理解することに注力した。その際、フランス革命史研究の動向を調査するのに相当の時間をかけたが、それにより20世紀の間に起こった歴史学の研究手法の変化がフランス革命の意義付けにも影響を与えてきたということを認識できたことは、本研究の遂行にとって有益であった。 当該年度には、ゲレスの革命思想および保守思想の真髄に迫ることはかなわなかったが、その代わりとして、読書・読者観およびフォルク観においてゲレスの多大な影響を受けたヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフにおけるSpiel概念に関する論文を完成させ提出することができた。これにより、当初の計画にある、フランス革命期とロマン主義期におけるフォルク概念を比較検証するための視座を得た。 必要な資料については、本研究にとって必要不可欠なフランス革命史に関する研究書や保守主義思想関連書、またゲレスおよびアイヒェンドルフの全集といった文献を滞りなく収集し、その読解もある程度進んでいる。 ただし、コロナウィルス感染症の影響により、予定していたベルリンおよびビーレフェルトへの資料調査がかなわなかったこと、3月に参加予定であった国際研究集会Kulturseminarが中止になったことは、今後の進捗状況に少なからず影響するものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
まずは保守革命に関する基礎文献であるRolf Peter Sieferle: Die Konservative Revolutionの翻訳を推敲の上、解説を添えて、本年6月までに福岡大学人文学部『人文論叢』に投稿する。その作業は、ドイツにおける特殊な保守思想および革命思想を歴史的問題として扱うために必要な準備となる。それをふまえ、保守革命の論者が好んで用いた概念やモチーフの起源となった19世紀初頭の国民に関する言説にもとづき、当時の保守主義について考察する。 具体的には、すでに読み始めているゲレス『ドイツと革命』および『ヨーロッパと革命』を引き続き読み進め、その中に表れる革命的言説と保守主義的言説とを精査して分類する。前年度の活動としてフランス革命史研究の動向を丹念に追ったことにより、歴史上の革命を単に進歩的思想の成果として捉えるのではない「文化史」的アプローチの手法を自身の研究に取り入れることが可能になった。この手法を用いて、ゲレスの文献を当時の文化的現象の一つと捉え、従来のような政治思想的解釈とは別の意義付けを試みる。その成果を論文にまとめ、日本独文学会『ドイツ文学』162号に投稿する。 この作業を進めるためには、ゲレスの思想をそれ以前の彼の著作との連関において捉えること、またそれを同時代の言説や政治活動と比較することが必要になる。これらについての基礎研究を、ドイツ保守思想研究会や日本独文学会西日本支部で随時発表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
交付初年度(令和1年度)に購入した物品(洋書全集)の費用が予算を超え、次年度の支払いに回したため。当該費用については、今年度分の交付決定後、すみやかに支払うことになっている。
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