研究課題/領域番号 |
19K23035
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
宮本 淳子 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (10849087)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 平仮名 / 文字史 / 表記史 / 入木道 / 書道史 |
研究実績の概要 |
本研究は、①中世から近世にかけて編まれた入木道伝書を対象とし、各所蔵先にて調査、撮影を実施することを主とし、そこに書き残された、書物を書写する際の技術や理論、能書家としての心得に関する記述の分析を行う。 3月までに金沢市立玉川図書館藤本文庫を中心に入木道伝書の撮影調査を実施することができ、新たな史料を見出した。現在は入木道伝書を通じて伝えられてきた様々な「書」に関わる知識、文字の習得過程、規範意識などを明らかにするため、調査資料の記述内容の検討を行っている。 同時に、本研究計画の2つ目の柱である②「寛永三筆」をはじめとする近世の能書資料の調査に関しては、使用されている表記(漢字や仮名字体)の計量的調査を実施し、字体の変遷、書流の形成過程との関係とを考察した。 申請者は、これまでにも日本語学の立場から書芸術に関わる 資料や近世の能書家の手に成る資料を扱い、異体仮名を一指標に、先行研究で捉えきれなかった書記実態、書流について検討を行ってきたが、書流の祖のみならず、高弟の資料にまで調査範囲を拡張したことで享受過程での変化、固定化への流れを新たに確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和元年度の研究実施計画のうち、①「入木道伝書」の諸本調査、デジタル撮影については、9月、12月、1月と定期的に調査に赴き、計画通りすすめることができた。主に京都学・歴彩館(京都府京都市)、金沢市立玉川図書館近世史料館藤本文庫(石川県金沢市)にて、およそ80点の資料の確認とデジタルカメラによる撮影を行い、平仮名書き文字資料のデータ収集を行った。このうち金沢市立玉川図書館近世史料館藤本文庫の調査では、同史料館職員の方のご教示を賜り、藤本文庫以外にも新たな入木道資料があることが確認され、1月に追加調査を実施した。現在、見出された資料の翻刻と分析をすすめている。 研究実施計画の2つ目の柱である②「能書資料」の調査に関しては、西尾市岩瀬文庫蔵藤田乗因筆『百人一首』をはじめとする影印資料を用いた、表記(漢字および仮名)の使用実態の調査をすすめた。従来の書道史研究で述べられている事柄を再検証するとともに、視覚的印象や運筆面では捉えられない書流ごとの特徴を捉えるため、計量的調査を行っている。本プロジェクトを実施することで、瀧本流の祖である松花堂昭乗の高弟で、瀧本流の確立に関わった藤田乗因の資料にまで調査範囲を拡張でき、瀧本流の特徴をより明瞭に捉えることができた。瀧本流の祖である昭乗と、乗因の両者を比較することで、昭乗真蹟の中に見出された多様で流動的特徴のうち、限定的特徴が模倣され、その後、固定化していくという享受過程が捉えられた。 令和2年3月14日、調査結果の一端を松花堂昭乗研究所の、令和元年度研究報告会にて口頭発表する予定であったがコロナウイルス感染拡大に伴い、報告会が延期となった。現在は、深化した形で発表できるよう調査を継続中である。加えて、同理由で、外出自粛要請が出され、各資料の所蔵先も休館中であるため、3月以降に予定していた調査は延期となった。
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今後の研究の推進方策 |
前述の通り、3月までの計画である撮影調査、データ収集に関しては、ほぼ計画通りすすめてきたが、コロナウイルス感染拡大という事態に伴い、3月以降、撮影調査は実施することは難しいのが現状である。そこで、今後は①オンライン上で公開されている資料データによる補完②調査資料の翻刻・分析③論文化・成果の発表を目標とし、すすめていくこととする。 まず①だが各調査機関のオンライン上で公開しているデジタルデータの情報を収集するとともに、現時点で公刊されている資料のデジタル化をすすめ、データの補完を行う。同時に、②3月までに撮影・収集してきた資料について整理し、翻刻を継続的に行う。入木道伝書の中に含まれている、漢字と仮名に関する記述、および仮名の習得順序など、書記実態を考察するうえで有益な手がかりとなる記事を抽出、分析する。調査段階で得られた重要な知見については③論文化し、積極的に公表していくことを目標とする。
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