本研究は、①中世から近世における「書」の習得に関わる伝書(入木道伝書)を対象とし、日本語史の立場から、伝書を通じて伝えられてきた様々な「書」に関わる知識や認識、文字の習得過程などを検討すること、②「寛永三筆」など、近世の能書資料に見られる仮名字体について、字体の変遷や、書流の形成過程との関係について明らかにすることを目的とする。 従来、書道史や書誌学の立場からは言及されることはあっても、日本語史の立場から十分な吟味がされてきたとは言い難い入木道伝書だが、これらの資料には、当時の人々の認識を直接表明した記述が含まれており、多様な表記の様相、背景、書記意識を明らかにするために重要な資料群である。 本研究では、国文学研究資料館田藩文庫を中心に、資料調査を継続的に実施するとともに、最終年度は、これまでに撮影・入手した資料を分析することに焦点をあて、論文化のための基盤データの構築を行った。 調査の結果、田藩文庫 (約 190 点)の入木道傳書のうち、当時の能書家がどのように文字・表記を捉えていたか、確認することのできる資料が何点か確認された。すなわち、持明院流入木道伝書に含まれる、古今和歌集などの書写の際、紙面をどのように構成し、歌や詞書を配すべきか、また、漢字や仮名を何字まで連続するかといった事柄である。 調査を通じ、そうした記述内容の検討を重ねるとともに、実際に、勅撰集を記す場合に、どの程度忠実に実践されていたのかについても、表記実態の照合調査から明らかにした。その成果の一端は表記研究会(2022年2月)に発表した。発表後、同様の資料を追加調査し、『国語文字史の研究』(和泉書院)などの査読論文に投稿すべく論文執筆をすすめている。なお、これまでの調査で使用した、持明院流入木道傳書の一部を翻刻と共にまとめ、『日本文学』(東京女子大学日本文学科発行)に報告した(2022年3月)。
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