本研究は,近世能書資料を対象に,表記実態及びその変遷を明らかにすること,また,入木道伝書の記述を検討し,当時の人々が書や文字に対してどのように捉えていたか,書記意識との関係を解明することを目的として研究を進めた。 調査の結果,入木道によって支えられた伝統的文字体系があること,また,田藩文庫旧蔵持明院流入木道伝書に,文字・表記に関する具体的な指示を含む資料が存することが明らかとなった。例えば,古今和歌集を書写する際に紙面をどのように構成し,漢字や仮名をどの程度交えるかといった内容である。さらに,書記実態との照合から,伝書内容が持明院流の能書家によって忠実に実践されていたことも判明した。
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