研究課題/領域番号 |
19K23036
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
生田 慶穂 お茶の水女子大学, 基幹研究院, リサーチフェロー (00846230)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 連歌 / 和歌 / 二条良基 / 救済 / 冷泉派 / 正徹 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、室町期の連歌表現と和歌表現がどのように影響し合ったか明らかにすることである。2019年度は、(1)二条良基・救済の連歌表現が後代の歌人にどのように摂取されたか調査し、(2)正徹の和歌にある「みだれ碁」という特異な語の享受史から連歌表現と和歌表現が交錯・連環するさまを考察した。 (1)良基・救済が一座した連歌作品のうち『石山百韻』『文和千句』の措辞について調査を行った。和歌・連歌のデータベース(古典ライブラリー提供「日本文学Web図書館」及び勢田勝郭氏提供「Keiko4」)によって用例を調べ、連歌表現を歌人が摂取したと考えられるケースを抽出した。結果、正徹の和歌に積極的に連歌表現が取り入れられていたことが判明し、また正徹の師である冷泉為尹の和歌にも連歌表現を取り入れたものが複数見つかった。中世歌人の多くは連歌にも興じており、和歌と連歌とで言葉や表現を使い分けていたと指摘されているが、冷泉派歌人においては連歌表現を敢えて摂取した可能性が高い。当時の歌壇と歌風を捉える上で重要なデータである。 (2)研究計画では正徹より前の状況を明らかにすることに焦点を置いたが、(1)の調査により改めて正徹の重要性が浮き彫りになった。正徹の和歌にある「みだれ碁」という特異な語(和歌・連歌における初例)に注目し、後代の和歌・連歌の用例を調べると、まず連歌で盛んに用いられ、のちに和歌にも用いられたことが分かった。また、「みだれ碁」の語義については諸説あるが、和歌・連歌における「みだれ碁」とボードゲームの「らん碁」の実態とは、中世に乖離したようである。歌人と連歌の接触によって新たな歌語が生み出された過程として注目される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
良基・救済が一座した連歌作品のうち『紫野千句』および京都女子大学図書館蔵『賦何路百韻』についても本年度中に用例調査を終える予定であったが、調査途中となっている。正徹の和歌にある「みだれ碁」という特異な語について発見したため、当初の研究計画には入れていなかったが、その調査に着手したことでスケジュールにやや遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度中に『紫野千句』『賦何路百韻』の用例調査を完了し、冷泉派歌人の和歌表現と連歌表現の関係について学会発表・論文投稿を行う。 正徹の和歌に始まる「みだれ碁」の享受史についても論文にまとめる。室町韻文史のあり方を見つめ直すことが主題であったが、余滴ながらボードゲームの「らん碁」の遊び方を盤上で復元することができたので、文化史研究にとっても有用であろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究機関の異動の準備等があり、当初予定していた資料調査を行うことができなかったため、旅費を繰り越すことになった。コロナウイルス感染拡大に配慮し、2020年度の資料調査は最低限に留め、なるべく複写を入手して対応するつもりである(学会や研究会の中止も予想される)。研究機関の異動によって和歌・連歌関係の資料を新たに購入する必要が生じたため、これに旅費の余剰分を充てたいと考えている。
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