本研究は中世高野山の宗教世界について、「宗教者の実践活動の意義と影響」、「寺院空間にあらわれる教学と信仰のあり方」、「宗教言説の成立と展開」の3つを軸に宗教文芸および思想史の視座から研究を進めてきた。2019年度において、本研究は高野山を舞台にする宗教言説を通して中世高野山の宗教世界について検討した。特に、『高野山往生伝』への分析を通して、中世高野山の霊地信仰の在り方、また高野山における宗教家の活動を考察し、その背後にある大伝法院側の関与および当時の権門寺院の実態を窺うことができた。2020年度では、中世高野山における浄土信仰の在り方、それと関わる宗教者の宗教実践、特に臨終行儀について分析してきた。それらの考察を通して、中世の高野山は浄土信仰のもとに諸宗兼学の場が形成された実態を明らかにした。2021年度において、儀礼空間、仏教説話、歴史の側面から中世高野山の宗教世界を考察してきた。特に高野山大伝法院本堂の内部荘厳について考察し、覚鑁の真言教学、および密教信仰はいかに大伝法院本堂という伝法会を行う儀礼の場に表象されていたのかを明らかにした。また、覚鑁における不動明王説話を取り上げ、大伝法院の法流移転問題を仏教文学においてどのように語られ、展開されていったのかを検討した。更に、高野山大伝法院の創建、伝法会の復興、及び大伝法院寺院組織の確立過程における覚鑁の真言教学の理念と鳥羽院の宗教政策を考察し、高野山における大伝法院建立の意義と位置づけを論じた。 2022年度では、儀礼テクストとしての講式とそれを執り行う場に注目し、高野山大伝法院流をはじめとする中世真言僧の信仰と実践の在り方について考察した。また、2022年度は本研究課題の最終年度であり、今までの研究成果を取りまとめ、それらの成果を通して見出された中世日本の顕密仏教に関しての新たな展開について国際研究集会において発表した。
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