本研究は古典語動詞を対象とし、奈良時代における一段活用の実態解明と、鎌倉時代から室町時代における「二段活用の一段化」進行状況の把握を主たる目的とするものである。 前者について本年度は、ミ語法に関連する論文「形容詞型の活用とミ語法」が刊行された。ミ語法については先行研究において、形容詞型活用における連用形活用語尾と捉えるか、動詞(主に四段動詞)由来の語尾と捉えるかで見解が分かれている。この点について本論文では、形容詞型活用の活用語尾でありつつも上一段活用動詞「見ル」に由来する活用語尾であること、そのために形容詞らしい修飾語性の用法と動詞らしい述語性の用法とが混在していること、先行研究のいずれの見解においても説明しがたかった助詞「ト」を伴う「ミト」という語形や助詞「カモ」を伴う「ミカモ」という語形について、いかなる活用形でも「ミ」という語形を保つ古い上一段活用の型を想定することで説明できるようになることなどを主張した。また、「ミ」という活用語尾が形容詞の他のいずれの活用語尾よりも古くに成立したものである可能性を合わせて指摘した。 後者について、前年度に引き続き、『玉塵抄』を対象とする調査を進めた。データは着実に集まりつつあるが、『玉塵抄』の3種の伝本のうち、東京大学国語研究室蔵本は一部の巻を除いて書籍でもインターネットでも公開されていない。そのため、可能であれば本年度中に閲覧して他の2種の伝本との異同を確認する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の影響で東京大学国語研究室蔵本の閲覧はかなわなかった。引き続き他の伝本による調査を進めつつ、可能になった際には東京大学国語研究室蔵本を閲覧するようにしたい。なお、今のところ集められているデータに、昨年度の研究実績報告書で言及した考察にそぐわない傾向は特に見られない。
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