研究課題/領域番号 |
19K23044
|
研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
平山 仁美 九州工業大学, 教養教育院, 講師 (40848602)
|
研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
|
キーワード | 形式意味論 / 語用論 / 不変化詞 / 談話効果 / 談話構造 |
研究実績の概要 |
本研究では,日本語の助詞・音調がもたらす談話への効果について明らかにすることを目標としている.今年度は博士論文で扱った内容である以下の2点について修正を施し発表した. まず第一点は,対比の「は」が前提とする談話構造をどのように形式的に計算するかという点である.日本語の対比の「は」は英語のcontrastive topicと振る舞いは似ているものの,使用出来る条件に違いがある.こうした両言語の差異を説明するとともに,日本語の対比の「は」の振る舞いの分析をより精緻にするため,continuationという手法を使った談話構造の生成を提案した.この手法により,対比の「は」が含まれる平叙文と疑問文が一律に扱え,さらに名詞以外に対比の「は」が付加された場合も同じように扱うことが出来る.さらに,continuationは自然言語の作用域にまつわる現象を説明するのに有用な道具であるが,談話のレベルにも使用可能であるという可能性が示された. もう一点は,対比の「は」による否定程度疑問文の救済についてである.否定程度疑問文は通言語的に不適格となると報告されているが,日本語では「は」を用いることによって救済が可能であることが先行研究で論じられてきた.本研究では,他の言語において行われる救済と日本語での救済を比較し,日本語の対比の「は」による救済は,対比の「は」に直接結び付けられている談話への効果によって意味論ではなく,語用論的に説明されるべきとした.こうした異なる救済方法の類型化により,言語によって救済のパタンが予測可能である可能性を示唆した. 今後は,continuationを用いた計算手法をよりコンパクトにすることと,博士論文で扱わなかった助詞・文型について研究を発展させていく予定である.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
博士論文で提案した手法の修正に想定よりも時間がかかっており,他の不変化詞や音調の持つ談話効果については十分に取り組むことが出来なかった.その意味で計画より進捗は遅れている.しかし,この修正は最終的な理論の構築には必要不可欠なものであるため,修正が進んだこともプロジェクト全体からすれば進捗の一部となっているといえよう.こうした背景から昨年度は実験を進めることも叶わなかったが,今年度はオンラインで可能な実験をデザインし理論的に説明が必要な現象の実態の把握に努めたい.
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の研究計画として考えていた各種国際学会への参加は,コロナウイルスの状況次第では見送るものが多くなることが予想される.そのため,今までの成果を雑誌論文としてまとめて投稿することにも力を注いでいきたい.また,対面で行おうとしていた実験についても,できるだけオンラインを用いた形で出来るよう計画を変更していく必要があると考えている. 今年度はこれまで扱ってこなかった文型や不変化詞と,昨年度修正した理論を組み合わせてさらに説明力の高い理論を提唱することを大きな目標とする.また,提唱した理論のより高度な形式化に取り組む.これらは学会発表に限らない様々な場所で他の研究者と共有し,フィードバックを受け改善していきたい.
|
次年度使用額が生じた理由 |
実験の実行が遅れたため,謝金として予定していた予算が英文校閲のみに使用されたので余剰が生じた.2020年度の実験や英文校閲代として使用していく.旅費についてはコロナウイルス感染症の影響を鑑みて予定していた学会への参加を見合わせたために余剰が生じた.2020年度の学会参加予定は現在のところ不透明であるが,可能な限り予定していた学会に参加するつもりである.困難な場合は書籍購入費などに当てることも考える.
|