研究実績の概要 |
本研究は、日本語の助詞・音調・文型がもたらす談話への効果を明らかにすることを目標としている。今年度は音調と文型との関係に着目して1件学会発表を行った。 通言語的に上昇イントネーションの付加は疑問文を表す操作の一つとして使われることが多い。しかしながら、特に英語において上昇イントネーションを伴うものの、疑問文としての性質を持ち合わせない文型(Rising Declaratives, Rising Imperatives)が昨今注目されている。一方、日本語では、英語とは異なり疑問文の生成に語順の操作は行われないため、上昇イントネーションが疑問文を生成するのに果たす役割は英語と比べ大きいと言える。日本語のように音調が文型を示すのに重要な役割を果たす言語においても、Rising Declarativesとも呼べるような、上昇イントネーションが付加されているのにも関わらず疑問文ということができない文が存在するのか、そしてその談話効果は英語とどのように異なって観察されるのかという疑問を出発点にしたのが今年度行った学会発表の内容である。本発表では、日本語の上昇イントネーションが付加されてはいるものの、意味論的に疑問文としての性質を示さない文を取り上げ、上昇イントネーションが英語のRising Declarativesと同様に話者のCommitmentを外す役割を果たしているという観点から分析できる可能性を示した。特に文末の「よ」が付与された文に注目して、「よ」が使われた文の持つ談話効果は「よ」がもたらす談話効果と音調が示す効果を組み合わせて得ることが可能であるという提案を行った。また、今回扱った上昇イントネーションを伴うものの疑問文とは分類し難い文の中には、かつて先行研究及び自らの研究においても「疑問文」として扱われたものも含まれており、そもそもの文型の分類の再考の必要性が示唆された。
|