本研究は、イギリスの労働者階級出身児童文学作家ロバート・ウェストール(1929-1993)の作品の日本での翻訳・受容を分析して、日本とイギリスの20世後半の児童文学の特質を明らかにすることを目的とする。2019年度は資料調査と収集、テクスト分析を進め、研究成果を2019年12月に日本イギリス児童文学会の第49回研究大会で口頭発表した。2020年度は、この受容研究を発展させ、ウェストールの『“機関銃要塞”の少年たち』の日英における受容の比較研究について、2020年10月に英語圏児童文学会第50回研究大会(オンライン開催)で口頭発表した。2021年度はウェストールの小説の翻訳について、国際児童文学学会(International Research Society for Children's Literature)の隔年開催される国際会議(2021年度は新型コロナウイルス感染症の影響でオンライン開催)で2021年10月に口頭発表を行った。この研究では、ウェストール作品に描かれる1940年代イングランド北東部の労働者階級の方言(Geordie)が、日本で1980年から2000年代の間に出版された一連の翻訳でどのように翻訳されているのかを分析した。この口頭発表をもとに研究を発展させて英語論文を完成させ、2022年2月に児童文学分野の国際査読誌Children's Literature in Educationに投稿し、2022年6月に掲載が決定した。この翻訳研究は、英日翻訳研究の分野でも児童文学研究の分野でもこれまでほとんど行われていないイギリスの労働者階級方言の日本における翻訳の研究であり、両分野への大きな貢献となった。また、ウェストールの『“機関銃要塞”の少年たち』の日英における受容研究についても英語論文を作成しており、国際査読誌に投稿する予定である。
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