研究課題/領域番号 |
19K23046
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
橋本 貴子 神戸市外国語大学, 外国学研究所, 客員研究員 (00844416)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | 唐代音韻史 / 梵漢対音 / 霞浦文書 / 音訳漢字 / 軽唇音化 / 脱鼻音化 / 対音資料 / 7世紀 |
研究実績の概要 |
2020年度は唐代における軽唇音化の進行状況についての研究を行った。 8世紀以降に軽唇音化が起きていたことは諸資料における反映からほぼ確実であるが、8世紀以前の状況については主に反切資料を扱った従来の研究において議論が分かれていた。そこで、8世紀以前の対音資料を用いて、そこに軽唇音化の反映がどのように見られるかを検討した。 7世紀前半の対音資料では、外国語のp、b等を軽唇音字で音訳したり、外国語のfやv等を重唇音字で音訳する状況が見られる。これらの状況は資料が基づいた当時の北方音において軽唇音化がまだ起きていなかったことを示している。ところが、7世紀中葉以降の対音資料、具体的には梵漢対音と新資料である霞浦文書中の音訳讃歌では、外国語のp、b等を重唇音字で、外国語のfやvを軽唇音字でそれぞれ音訳する。このような音訳における重唇音字と軽唇音字の使い分けが、ほぼ同時期の複数の対音資料に共通して見られることから、7世紀半ば以降には軽唇音の唇歯音化がある程度進行していた可能性が高い。 以上の成果と2019年度に行った初唐期の微母および日母の音価についての研究成果を併せて論文としてまとめ、令和3年4月に『神戸外大論叢』第73巻第3号に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は新型コロナウィルス感染拡大の影響でオンライン授業の準備や課題添削に時間がかかり、それによって研究時間が大きく圧迫され、本来予定していた研究を少ししか進めることができなかった。そこで、やむを得ず補助期間を延長することにした。 また同じく新型コロナウィルスの影響で、2020年春に投稿を予定していた紀要の刊行スケジュールが延期され、研究成果の公表が遅れることになった。しかしながら、新たに生じた時間を利用して投稿論文の内容をブラッシュアップでき、議論が当初の構想よりも濃いものとなったのは、不幸中の幸いであった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度までの研究で、7世紀半ば以降には軽唇音化が進行していたことを明らかにした。但し、同時期の一部の梵漢対音ではサンスクリットのbとvを漢語の並母[b-]で音訳することがあり、軽唇音化と矛盾するかのように見えるため、何らかの説明が必要である。そこで2021年度は、この問題にインド側における地方的要因が関係している可能性を検討したいと思う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で出張が全て取りやめになったこと、一部の文献の取り寄せが困難であったことが主な理由である。 次年度の文献収集に使用する予定である。
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