本研究の目的は、唐代に起きたと言われる軽唇音化の進行状況および微母と日母の具体的な音価について、対音資料を用いて解明することにある。研究によって、7世紀半ば以降には軽唇音の唇歯音化がある程度進行していたこと、微母は十分な摩擦音化および非鼻音化は生じておらず鼻音的要素が保存されていたこと、一方で武后期頃の成立と目される対音資料に日母の摩擦音化の反映が見られることを明らかにした。以上に加えて、義浄の音訳漢字においてサンスクリットの/v/が並母[b-]で音訳される傾向は漢語側の問題に起因するものではなく、基本的にはインド側における/v/と/b/の混乱を反映した可能性が高いことを指摘した。
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