本年度はフランス・ロマン主義の嚆矢とされる18世紀の作家ジャン=ジャック・ルソーの『新エロイーズ』や『告白』などの作品と、ラマルティーヌやボードレールといった19世紀ロマン派の作品を比較検討することで、とりわけ自然の位相をめぐる18世紀文学と19世紀文学の美学的特徴を考察した。また、18世紀末に活躍しルソー同様ロマン派の作家たちに多大な影響を与えた詩人アンドレ・シェニエ(1762-1794)の作品を読み進め、ヴィクトル・ユゴーやサント=ブーヴらによるシェニエ評価と照らし合わせることで、詩的エクリチュールにおける18世紀文学と19世紀文学の結節点を考察した。さらに、サント=ブーヴによるユゴーやボードレール批評の読解をつうじて、形式と主題の双方におけるロマン主義美学の変遷を明らかにした。 2月にはフランスおよびスイスにて文献調査を行なった。パリでは、ランボーを中心とする19世紀文学研究者でグルノーブル大学准教授のアドリアン・カヴァラロ氏に会い、近年のロマン主義研究に関する情報交換や日仏シンポジウム企画の打ち合わせを行なった。 研究期間全体の総括としては、コロナ禍の影響で予定していた回数の渡仏調査を行なうことができなかったものの、デジタル・アーカイヴ等を駆使して、おおむね順調に文献調査を進められたと言える。当初は19世紀前半に出版された文学全集や文学史の教本の調査を予定していたが、ロマン派の作家たちによるルソーやシェニエら18世紀文学批評の読解を研究の中心に据えることで、19世紀ロマン主義が18世紀文学をどのように受容したかをより具体的に理解することができた。
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