従来のロマン主義研究では特定の作家を対象とする作家研究が主流であったのに対し、本研究では特定の作家ではなく、ロマン主義時代全体を形成した多くの作家や批評家の言説に着目した。これにより、ロマン主義という概念がロマン派の勝利宣言のなかだけに見出されるのではなく、さまざまな言説のダイナミズムのなかで形成されたことを明らかにした点に本研究の学術的意義がある。また、ロマン主義という文化潮流が、ひとえにロマン派という歴史の勝者だけでなく古典派という敗者の言説によっても形成されていたという事実を明らかにする本研究は、歴史一般の成立を再考するうえで有意義であり、この点において社会的意義をもつものである。
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