本研究は、武家一門の累代にわたる活躍を描いた「家将故事」について、とりわけ清代における小説や戯曲といったメディアの上で行われた創作の有様を解析することでそれらの作品の再評価を行うことを目的とする。 2023年度はこれまでに執筆した研究論文や先行研究などの収集資料についての見直しを行なった。本研究では、「家将故事」の中でとりわけ伝承の歴史が古く、平話、元曲、説唱詞話、明伝奇、明小説など多くのメディアに作品が残る「薛家将故事」を中心に検討を進めており、清代に入ってそれらと深く関わってくる「羅家将故事」についての検討にも力を注いできた。その上で、清代における創作現象を特徴づけるには、明代までの創作についても本研究の視点で再検討した方がよいという考えに至った。再検討した内容は以下の3点である。 1:平話『薛仁貴征遼事略』の構造の普遍性、2:説唱詞話『薛仁貴跨海征遼故事』が出版された時点でのテキストの不完全性、3:明伝奇『金貂記』における薛家将故事と尉遅敬徳故事の融合 以上の再検討を経て、明代までの「薛家将故事」作品演変の中に、英雄物語を大きな枠組みとしてさまざまな物語を取り込み、情節を膨張させる要素があったことを確認することができた。これまでに発表した論文について、薛家将故事が外部の情節を取り込んで膨張するという視点、羅家将故事との融合による「シリーズ化」という視点、そして、民間における家将故事膨張とは全く方向を異にする清代宮廷演劇における故事改編という視点により加筆修正を行い、博士学位請求論文としてまとめた。
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