研究課題/領域番号 |
19K23062
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研究機関 | 弓削商船高等専門学校 |
研究代表者 |
板垣 浩正 弓削商船高等専門学校, 総合教育科, 助教 (30845251)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 連結的知覚動詞構文 / 主体化 / 知覚・感覚 / 認知言語学 / 属性評価 |
研究実績の概要 |
本年度は当初立てた研究課題である知覚動詞構文の用法の記述、とりわけ言葉に現れないが想定される主体(非明示の主体)について正確な記述を目指した。そのため、まず当該表現の事例をBNCやCOCA, NOW Corpusなどの英語コーパス等を用いて幅広く収集したうえで、前後の文脈を踏まえながら分析と考察を行った。これに加えて、日本語を中心に当該表現に対応する構文との対照的な分析を試みた。その結果、以下の二点を明らかにした。 (1) 知覚表現が表す各知覚モダリティに応じて「非明示の主体」の解釈に傾向が見られることが分かった。例えば、味覚モダリティを表す知覚動詞構文(例. This cake tastes good.)では、「非明示の主体」が総称的な存在の解釈が好まれていることが明らかになった。また、この傾向はいわゆる中間構文(例. This car drives smoothly.)で指摘されている非明示項と類似する振舞いであり、中間構文と味覚が関与する知覚動詞構文との接点が確認された。 (2) 日本語と比較対照した結果、英語の知覚表現は知覚対象が有する属性・状態への評価に重点が置かれる一方で、日本語は話者の実際の体験や得られた感覚に依存した知覚的な特徴を描く傾向にあることを明らかにした。この結果は、同時に(1)で提示した傾向が、「知覚」上の普遍的な傾向にあるものではなく「知覚表現」という当該構文固有に備わった傾向であることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度の目標は、関心を置く言語表現の実例・事例を幅広く収集して分析し、各感覚器官が関与する知覚表現の分布を明らかにすることにあった。「研究実績」欄にも記載したように、この収集から2つの結果が得られたため、おおむね順調な進展と考えられる。加えて、分析の過程で、他構文との接点を発見したことは新たな成果の一つであると捉えている。ただし、一部まだ公開できていない研究成果が含まれているため、これの達成は翌年度の課題とする。 なお、当該構文の動機づけに関する考察および理論的説明付けは、予定通り翌年度に展開する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、①認知言語学の視点に基づく当該構文の動機づけの提示、②その動機づけ・原理がより広範な言語現象にも適用できるのかの検討、を進めていく。おもに認知言語学で関心が寄せられている「主体性」という視点から取り組むことになると思われる。その際には、なぜ特定の構文に限って言葉には現れない主体の存在が読み込まれるのかという制約に関わる原因の解明を目指す。また、今年度に得られた研究成果をまだ一部公開できていないため、関連する分野の研究者と意見を交わしながら、刊行や公表の準備に取り組みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外出張の旅費に充てる予定だったのだが、新型コロナウィルスの影響により学会および関連する打ち合わせが全てキャンセルとなってしまった。次年度は施設設備の拡充や海外出張、論文等の校正チェックに使用する予定である。
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