本研究は、複合動詞の敬語形について、客体敬語に着目し、通時的な研究を行い明らかにするものである。従来の古代語の複合動詞の研究は両極であり、存否に関する大きな問題を扱う論文と、特定の動詞が前項や後項になる場合についてなど、限定的な問題を扱う論文とはかなりある。しかし、「体系」を扱う論文は少ない。また、敬語体系は動詞全体に大きいな影響を及ぼすにもかかわらず、特定の動詞の敬語形に触れたものだけは見られる。総じて先行研究は少なく、体系を明らかにした研究はほとんどない。敬語体系を明らかにすることは、複合動詞の体系の一部を解明することであり、複合動詞の研究には必要である。 本研究は、これまでの研究ではふれることが少ない客体敬語に着目し、国立国語研究所の「日本語歴史コーパス」(CHJ)を利用し、客体敬語の形になる複合動詞を検索した。コーパスを使用することで、短時間で大量の用例を集めることができ、また、各時代から用例収集できた。 その結果、主体敬語との構造が異なり、二段階の敬意の使い分けが見られないが、客体敬語にも体系があり、異なる動詞を敬語形にする場合、異なる形を選び、使用する。二段階の敬意が見られない理由は、主体敬語(尊敬語)を使用するかどうかにより、主体と客体の身分差を示すことができる。つまり、客体敬語は主体と客体の関係を規定するものであり、主体を立てるための主体敬語の使用の理由と異なる。 近年では、複合動詞に関する研究が盛んであるが、現代語の複合動詞の研究が見られる一方、古代語の複合動詞の研究は少ない。本研究は複合動詞と敬語研究の分野で、複合動詞の敬語体系をとりまとめる研究になると考えられる。
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