研究課題/領域番号 |
19K23066
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研究機関 | 室蘭工業大学 |
研究代表者 |
BAEK SANGYUB 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 特任助教 (60788925)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 記述言語学 / 地域言語学 / 言語類型論 / 言語接触 / サハリン島 / ツングース諸語 / ウイルタ語 / 周辺言語 |
研究実績の概要 |
(1)サハリン島に分布するウイルタ語(ツングース諸語)、アイヌ語、ニブフ語における複数接辞の文法機能について研究を行った。その結果、これら3言語の複数接辞が、名詞でも動詞でも生産的に用いられ、名詞では複数表示、動詞述語構造では動作主が3人称複数であることを表す文法機能において、共通しているを明らかにし、同現象はツングース諸語のうち、サハリン島のウイルタ語のみに見られることを提示した。 (2)また、ウイルタ語と同じく第Ⅲ群のツングース諸語に属するナーナイ語、ウルチャ語の類型論的相違について考察を行った。その結果、①奪格・共同格の有無、②特定格と否定形の共起による分析的欠如表現の有無、③可能関連補助動詞の分布、④前置型・後置型否定構造の有無、⑤複数接辞-lの使用、⑥条件副動詞*-mi と *-rAki-に見られる指示転換において、ウイルタ語が、ナーナイ語、ウルチャ語と異なる類型論的特徴を有していることを示した。興味深いことに、これらの類型論的相違がウイルタ語と隣接している第Ⅰ群のツングース語であるエウェンキー語と共通していることも確認できた。 (3)さらに、ロシア東シベリア地域に話される北ツングース諸語(エウェンキー語、エウェン語)とその周辺言語であるコリマ・ユカギール語を対象に類型論的類似性について考察した。その結果、①定動詞(直説法)の時制体系、②定動詞(直説法)3 人称表示における数の対立、③アスペクト表示の形態/統語法、④特定格と否定形の共起による分析的欠如表現、⑤指示転換の観点から見た条件形、⑥相関構文において、両言語間に文法的類似が見られることを指摘した。 以上の研究成果から、サハリン島のウイルタ語と東シベリアの北ツングース諸語が、それぞれ周辺言語と類似した類型論的特徴を有していることが確認でき、言語接触の可能性が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画していた文献資料に基づく研究は完了しているが、上記の(1)と(2)に関する現段階での成果を検証・再確認するため、ロシア・サハリン島のウイルタ語話者を対象に実地調査(2020年3月12日-28日)を行う予定だったが、COVID-19のため、実地調査が中止・延期となった。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19が収まり次第、ロシアサハリン郷土博物館の協力を得て迅速にウイルタ語の実地調査を行い、文献資料にもとづき、得られた成果(上記の(1)と(2))について検証・再確認する。 また、新疆ウイグル自治区に分布するシベ語に関しても実地調査に行い、シベ語と満州語(文語)における類型論的違いについて研究を行う予定である。 ※もしCOVID-19や新疆ウイグル自治区における治安問題や調査ビザ取得問題が生じた場合は、その対策案として、サハリン島(北部)に分布するもう一つのツングース語であるエウェンキー語について実地調査を行い、ウイルタ語との言語接触の可能性に関する研究に変更する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19のため、2019年3月に予定していたサハリン島実地調査が中止・延期となり、次年度使用額が生じた。そのため、COVID-19が収まり次第、迅速にサハリン実地調査を実行する予定である。
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