本研究は、津島佑子の文学における自然・動物の表象に注目し、その発展の形態、ならびにそれを促した戦後日本の時代状況との関係について明らかにすることだった。「伏姫」の分析では、津島の自然・動物観の背景に、当時のフェミニズム主流派からは批判された「エコロジカル・フェミニズム」と共鳴するものがあったことを明らかにできた。「真昼へ」の分析では、長男の死を契機に、アイヌ口承文芸の方法の摂取があり、それは統一的な語り手を瓦解させ、新たに多自然主義的な語りを生み出していることを明らかにできた。これらは、津島文学の主題と技法における特異性を証明するとともに、文学研究の方法論自体に深い内省を迫るものだと言える。
|