本研究は、三・一独立運動から関東大震災にいたるまでの朝鮮人表象の調査を通して朝鮮人虐殺の背後にある情動の働きを解明するとともに、朝鮮人虐殺を作品化したテクストを包括的に分析・評価することで、震災後文学の問題点を照らし出すことができた。また、被抑圧者の抵抗運動や民族間の連帯に光を当てることで、従来のポストコロニアル研究が前提としてきた宗主国と植民地の間の固定的な「支配/従属」の関係を捉え直すことができた。本研究で得られた知見は、狭義の文学研究を超えて、歴史修正主義や外国人排斥などの現代の日本社会が抱えているアクチュアルな問題を再考するうえで重要な示唆を与えるものであると考える。
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