2019年度と2020年度は『聊斎志異』と日本のポップカルチャーなどの諸問題について研究した。まずは、主に50年代から90年代前半まで公開された『聊斎志異』の相関映画と、これらの映画の製作背景、影響、評判を考察した。急速に拡大したビデオ市場を狙い、80年代後半から香港製作の『聊斎志異』の三級映画(ポルノ映画)は大量に日本に輸入されていた。その影響として、『聊斎志異』映画やビデオにおける性描写は、男性が性を主導する固有観念を破れ、セックスにおける男女差別を反論していたフェミニズムの風潮と合流した。この問題の延長線上に、フェミニズム要素が含まれる武田泰淳の武侠小説『十三妹』と『聊斎志異』との比較考察を行った。中国古典作品と日本の社会運動との関連性が注目され、中国古典がいかに時流に応じて利用されていたのかがわかった。最後は、『聊斎志異』の名編、「画皮」がいかに手塚治虫、水木しげるなどの漫画家に利用され、マンガ、アニメ、映画などの様々な大衆文化に定着したのかを中心にして考察を行った。
2021年度は、主にインテリにおける『聊斎志異』の理解をめっぐって研究した。70年代の日中関係変化とともに、本格化していく『聊斎志異』研究と、『聊斎志異』原典の話や趣旨から大幅に離れているアダプテーションは同時に存在しており、しかも両者の隔たりなしずれはどんどん大きくなる。そして、この相反する両者の間に挟まれているのは、古典中国だけではく、近現代の中国社会や文化もよく理解し、それを踏まえて『聊斎志異』を素材にして新たな「中国風」ファンタジーや冒険談を創作する文学者である。伴野朗の『聊斎志異』改作、『幽霊-私本聊斎志異』その好例として挙げられる。「黄英」をめぐって、太宰治の翻案「清貧譚」から伴野朗の「黄英」への変化を考察することによって、新たな時代における『聊斎志異』の翻案・受容の変化を窺うことができた。
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