本研究では、イタリア近代文学を代表する作家アレッサンドロ・マンゾーニの主著『婚約者』の決定版(1840-42年)について本篇テクストだけでなくその周辺のパラテクストを含めた総合的な分析を進めてきた。そのために、1825-27年の初版には見られなかった2つの要素、(1)巻末に付け加えられたノンフィクションの小作品『汚名柱の記』と(2)著者による指示により配置された挿絵の調査・分析を行ってきた。 挿絵の研究のためには、特に『婚約者』のテクストや挿絵とカラヴァッジョの絵画の関係を論じた著作で注目を集めたシエナ外国人大学のダニエラ・ブロージ氏から助言を得ており、挿絵を重視したBUR版『婚約者』の編者の一人マルコ・ヴィスカルディ氏ともオンラインセミナーで対談する機会も得たが、最終年度には、イタリア出張中にヴィスカルディ氏がブロージ氏の招きでシエナで行った講義内講演に参加することもできた。挿絵そのものだけでなく、決定版における大きさや配置(テクストとの位置関係)の重要性について改めて示唆を得た。『汚名柱の記』については、マンゾーニが作中で言及する18世紀の啓蒙思想家の著作(ピエトロ・ヴェッリ『拷問に関する諸考察』やチェーザレ・ベッカリーア『犯罪と刑罰』)との関係の検討を進めることができた。また、『汚名柱の記』翻訳の下訳を終え、2023年中の出版に目処がたった。本研究の成果の一部は、翻訳の「解題」においても発表したい。資料収集のためのミラノ出張では、聖心カトリック大学のピエラントニオ・フラーレ氏から助言を得て、解題執筆および今後の研究論文のための有益な資料を手に入れることができた。
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