近年,日本と台湾では経済・文化面での交流が深まり,相互の理解も進んできた.ただし,アジア・太平洋戦争の記憶をめぐる解釈のちがいは,双方で誤解を生む原因にもなることが予想される.そこで本研究では,台湾で生きる人々の感情や意識をくみとることを目指して,台湾人作家の「戦争記憶」をめぐる作品を作家の世代でわけて読み解き,戦後に「戦争記憶」をめぐる台湾文学作品が多元的にあらわれた意義を解明した.「戦争記憶」を扱う台湾文学が,戦後の国民党による政治的禁制が続いた戒厳令期の時代,さらにはその後の民主化以降の新たな時代に,それぞれいかなる意味を持ったのかを,人と社会,歴史,文学の関係から考察したのである.
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