本研究は、植民地朝鮮・台湾・満州における文楽(義太夫)享受の諸相について外地における伝統芸能の公演や内地人の娯楽としての芸能活動という観点から考察するものである。 外地においては、1910年以降、盛んに能や文楽、歌舞伎など古典芸能の興行・巡業が行われていた。日本芸能史において、これら外地における伝統芸能の公演や内地人の娯楽としての芸能活動については、ほぼ扱われてこなかった。したがって、本研究では、興行の実態や内地人の古典芸能関連活動を具体的に調査しその全体像を明らかにし、外地に住む人々にとっての古典芸能の意味を探ることを目的とした。 資料としては、外地で発行された新聞、雑誌記事、国内で刊行された文楽および演劇関連雑誌記事、また、外地(植民地)で日本人によって刊行された書籍を収集し調査を行った。 収集した資料を考察し、昨年度までは、2021年12月18日、韓国日語日文学会(オンライン開催)にて、「植民地朝鮮と浄瑠璃」という題で研究発表をし、執筆した論文は「植民地朝鮮における素人義太夫の活動」という題で『青山語文』53号(2023年3月)に掲載された。また、2022年8月29日に開催された「アジア未来会」国際学会(於台湾中国文化大学)にて、「植民地朝鮮・台湾滞在日本人と日本古典芸能」という題で発表報告を行った。 本年度は韓国の図書館に所蔵されている資料を追加で調査し、また大阪の中之島図書館、国立文楽劇場図書館に所蔵されている浄瑠璃雑誌に掲載されている関連記事を収集し考察を進めた。考察をもとに、「近代の朝鮮半島・台湾・満洲における浄瑠璃に関する出版物」という題で論文を執筆し、2024年刊行の『歌舞伎の東西―絵と文化』(仮)に掲載される予定である。
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