外地においては、一九一〇年以降、盛んに能や文楽、歌舞伎など古典芸能の興行・巡業が行われていた。しかし、日本芸能史において、これら外地における伝統芸能の公演や内地人の娯楽としての芸能活動については、ほぼ扱われてこなかった。文楽などの古典芸能が外地を巡業という形で興行を行い、素義会も越境する形で活動が行われたことから、本研究は研究の軸を所謂外地に設定し、共時的な視点から外地における文楽(義太夫)の享受の諸相について明らかにすることで、日本に焦点を当てた従来の近代文楽史に、新たに重層的で多面的な記述を加えることが可能になったと考える。
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