カリフォルニア大学バークレー校マーク・トウェイン・ペーパーズ/プロジェクトでの調査研究を予定していたが、新型コロナウィルス感染症の世界的拡大のために実現できなかった。在外研究が不可能となったため、国内において研究を進めた。昨年度に引き続き、トウェイン初期作品における先住民表象を精査した。あわせて、「マニフェスト・デスティニー」の拡張主義のもとで沈黙・周縁化されてきた先住民迫害史への関心をもとに、トウェインの口語的語りの後続世代への影響を再吟味するうえで重要な位置を占める作家シャーウッド・アンダソンの『ワインズバーグ、オハイオ』および『卵の勝利』の研究を行った。とりわけ、アメリカの土地所有権の問題に焦点をあてて『卵の勝利』における人種表象を複層的に精査し、成果を論文「卵のかなしみ -- シャーウッド・アンダソン『卵の勝利』における人種、重力、発話困難性」として発表した。1938年3月30日、友人ロジャー・サーゲルに宛てた書簡においてアンダソンは、白人の生/日常に見いだされる本質的な不充足の感覚がアメリカの「大地」からの疎外状況からもたらされていることを示唆している。この事実に照らして、『卵の勝利』の人物たちの孤立状況や内面の傷つきやすさとアメリカの土地所有権の問題の連関を精査し、マーク・トウェインを文学的な「父」とする作家アンダソンの人物たちの表出困難な欲望のありかたを、人種暴力をめぐる「アメリカの原罪」の文脈に照らして再定義した。
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