研究課題/領域番号 |
19K23094
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研究機関 | 沖縄国際大学 |
研究代表者 |
小嶋 賀代子 (下地賀代子) 沖縄国際大学, 総合文化学部, 准教授 (40586517)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 琉球語 / 危機言語 / 継承活動 |
研究実績の概要 |
本研究の主要な目的は、南琉球・多良間方言の習得に最も有用な学習コンテンツを作成を試みることである。2019年度は、学習コンテンツ作成の前提となる、多良間島における学習者のニーズを把握するための調査を実施した。約40名の方の協力を得ることができた。フォローアップを含めたさらなる調査が必要であるが、多良間方言の継承の意志を持つ人は少なくないが実具体的な活動を起こすまでには至っていないという現状が窺われた。 また、危機言語に関する言説分析と、琉球語圏における継承活動の先行事例として沖永良部島の活動を取り上げ、その分析と考察を発表した。そして同発表を加筆・訂正して論文としてまとめた(「沖永良部島を琉球語継承活動の現状と課題―先行事例の分析を通して―」)。 論文について、まず、宮岡・崎山編2002『消滅の危機に瀕した世界の言語―ことばと文化の多様性を守るために』に収められた論考を手掛かりに、危機言語研究および継承活動の必要性、言語学者の役割について考察した。必要性について、いずれの言説も〈学問上の重要性〉〈「言語権」の保障〉〈言語に込められた知識の重要性〉という3つの観点で共通しており、危機言語の記録及び継承に携わる全ての研究者の共通認識となっていると述べた。研究者の役割については、〈その知識をもって危機言語の継承を支援する〉〈危機言語のコミュニティに対して継承に肯定的な態度を喚起する〉という2点が求められていることを指摘した。さらに言語の継承活動に伴う「困難さ」について考察し、特に琉球語の継承においては、極めて困難ではあるが、その多様性の維持が極めて重要であると述べた。 以上を踏まえ、沖永良部島における継承活動の分析・考察を試みた。同地での継承活動は「うまくいっている」と評価でき、研究者と「鍵となる個人」が協働を契機に活動の連鎖が生じ、継続的なものとなっていることを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は多良間方言の学習者にとって最も有用な学習コンテンツの作成を目指し、学習者の現状、ニーズなどを調査を必要としている。研究の前半では、多良間村の教育委員会の協力を得つつ、①方言教育及び方言学習の現状(実施状況、成果等)、②非多良間方言話者の、方言学習のニーズ及び学習に対する意識、③多良間方言話者の、方言学習及び継承活動に対する意識、の3点について調査を行う予定であった。昨年度は10月に③についての調査を行うことができたが、①、③については実施がかなわなかった。所属大学の春休み期間中に調査のため再度来島する予定だったのだが、現在も続く新型コロナウイルス感染拡大を受け、現地調査を控えたことによる。 また、琉球各地で行われている継承活動の臨地調査も行う予定であったが、日程の調整がうまくいかなかったため、報告書の考察とメールインタビューを行うにとどまった。 なおメールインタビューは、沖永良部島についてのみ実施できた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究を進めていくにあたり、最終年度である今年度は、まずは、多良間島でのニーズ調査および方言教育および方言学習の現状の把握を徹底する必要があると考える。同島は新型コロナウイルス感染拡大の対応として来島自粛を求めているため(2020年5月現在)、調査の準備を進めつつ、状況の変化を待ちたい。またSNSの活用やSkypeやzoomといったwebシステムの利用が可能かどうかも検討する。 また、奄美沖永良部島以外の活動事例についても調査を進める。候補地として奄美与論島、宮古島、八重山石垣島、同与那国島を挙げていたが、合わせて沖縄本島中南部における活動事例の分析も必要と考えるに至った。いわゆる都市部では、コミュニティ・メンバーの話す(理解する)琉球語がその地域の言語(方言)ではない、すなわち、地域から切り離された琉球語バラエティを持つ、というケースが多いことが考えられる。そしてそのことによって、沖縄本島中南部で展開されている継承活動は、「広範囲」の、超地域的な内容のものが少なくなっていると予想している。同地の琉球語バラエティ同士の言語的な差異が小さい(「ウチナーグチ」と一括りにしやすい)こともふまえつつ、都市部における琉球語の継承活動の現状についてもより考察を深める必要がある。 以上の調査を踏まえ、多良間方言学習のための具体的なコンテンツ(案)を作成を試みていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、当初の計画通りに調査出張に行けなかったことがその主な理由である。2019年度は5月にも多良間島での臨地調査を予定していたが、家族の急病によりキャンセルした。さらに3月に予定していた多良間への調査も行えなかったこと、他地域の活動状況の調査のための日程調整に難航したことはすでに述べた通りである。 本研究の費用のメインは旅費であるが、これは本研究を進める上で、琉球各地への調査出張が必要不可欠であることによる。新型コロナウイルスの感染拡大の状況によっては、今年度も十分な調査出張が行えない可能性がある。研究期間の延長も検討している。
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