研究課題/領域番号 |
19K23096
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研究機関 | 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所 |
研究代表者 |
柳原 恵津子 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 言語変化研究領域, プロジェクト非常勤研究員 (50401162)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | 記録体 / 平安時代古記録 / 複合動詞 / 補助動詞 / 漢字仮名交じり表記 / 殿暦 / 電子化データ / 権記 |
研究実績の概要 |
本年度は、「1,平安時代古記録における複合動詞と、後項動詞の補助動詞化についての研究」、「2,『殿暦』の漢字仮名交じり表記と文体の習得過程についての研究」、「3,『権記』電子化データの作成」という三つのテーマについて、初年度の続きの作業を行った。 「1,平安時代古記録における複合動詞と、後項動詞の補助動詞化についての研究」では『御堂関白記』を対象とした前稿で集めた後項動詞群を再び取り上げ、平安時代の主要な古記録7点で検討した。その結果、古記録・和文双方で頻用される動詞については、和文で補助動詞化する動詞群(「置(く)」「行(く)など)も古記録では本動詞の意味範疇で用いられ、口語的な『御堂関白記』や院政期以降の文献にわずかに補助動詞的な例があるのみであることが分かった。さらに、古記録のみで頻用される後項動詞群(「参(る)」「送(る)」など)は語彙的複合動詞のうちの主題関係複合動詞を構成するもので、後項動詞が補助動詞化する「アスペクト複合動詞」が主流の和文とは異なる造語の仕組みをもっていたことが分かった。平安期に古記録で造語力のなかった「果(つ)」「渡(る)」などが後世消失したものであることもわかり、今後さらに調査してゆくテーマのひとつである。 「2,『殿暦』の漢字仮名交じり表記と文体の習得過程の研究」では、『殿暦』にきわめて多く見られる仮名交じり表記が、文節を超えた範囲での仮名表記が多い前半部から、やがて助詞助動詞を補うのみの例が多くなってゆく様子を指摘し、記主忠実の記録体表記の変化、習得過程を明らかにした。さらに精緻に研究を行うため『殿暦』古写本の写真帳を東京大学史料編纂所で調査も行った(この成果は21年5月に発表予定)。 「3,『権記』電子化データの作成」では、重要であるが現段階で検索不可能な『権記』を取り上げ、公開可能な形を目指したデータ作成に着手した(継続中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度は、コロナウイルス感染症の蔓延防止のための措置により、実施できなかった事項が多かった。2020年3月に予定されていた韓国日本語学会の学術大会が9月に秋季大会と合わせて開催となり、8月に予定されていたEAJSの大会も2021年夏に延期となったことをはじめとして、発表の機会が減り、論文投稿まで至らなかったテーマが複数あった。また、古典籍や写真帳の資料閲覧が停止となる機関・時期があり、11月に一度、東京大学史料編纂所での閲覧を実行できたのみであった。 その他にも、論文等基礎文献の収集、対面の場での相談等がかなわないなど、多くの面で研究に支障があった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度行った「1,平安時代古記録における複合動詞と、後項動詞の補助動詞化についての研究」、「2,『殿暦』の漢字仮名交じり表記と文体の習得過程についての研究」、「3,『権記』電子化データの作成」という三つのテーマについて、引き続き研究を行ってゆく。 「1,」については、上に記した内容が学会発表を行ったのみであるため、まずこの論文化を行う。さらに中世以降についても調査し、これまでの和文・和漢混交文・中世以降の口語資料等を対象とした補助動詞研究、アスペクト研究との議論の接続を試みる。和化漢文を記すという作業、古記録や古文書といった媒体がどのように語法・文法全般に影響を及ぼしたかという観点から、論じてゆく予定である。 「2,」については、21年5月に、漢字仮名交じり文の濫觴のひとつとして日本語史研究で多く言及されてきた『殿暦』の古写本がどのような態度で書写されたものであるか、その資料性を問う発表を行う。さらに本年度は、平安古記録における漢字仮名交じり表記部分を網羅的に眺め、平仮名片仮名、大字小字などの出現状況を眺めていく。築島裕らによって、変体漢文中の仮名表記は宣命、和歌、訓点資料などさまざまな文体、媒体での仮名表記を援用したものと指摘されてきた。また、院政期以降花開く漢字仮名交じり表記文へとつながりを持つとも言われてきたが、双方のジャンルの文献での使用文字の異同といった具体的な検討は必ずしもなされていない。この穴を埋めるべく、古記録発生の9世紀後半まで立ち返りながら、和化漢文中の仮名交じり表記について記述を行ってゆく。 「3,」については、作業を積極的に行い、研究成果に活かしてゆく。海外出張が中止となった予算を使うことで『権記』全巻の入力が叶った。公開を見据えた形で、データを整えてゆく。 また「4,助辞についての研究(「之」について)」が論文化できていないので、発表をする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウイルス感染症蔓延防止のため、海外出張等がかなわなかった。研究の進捗にも支障をきたしたため、終了年度を1年延長使用することとし、残額も2021年度に使うこととした。
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