最終年度は、交付申請書「研究の目的」にあげた三つの目的「①平安時代後半記古記録における語法・語彙についての記述的・事例的な研究を得」ること、「②記主たちの文体獲得の過程を把握することで、語法・語彙がなぜそのような実態であるかを考察する道筋を」得ること、「③平安初期の和化漢文や訓点資料での実態と比較対象することで記録体成立の過程を観察する道筋を提示すること」の各項目について成果を得ることができた。 ①については、古記録の複合動詞における後項動詞が文法化しにくく、後世「アスペクト型複合動詞」の後項動詞として発達する「行く」などの動詞群が本動詞の用法として造語力を持っていて中世以降の発展の萌芽を思わせることなどを、前年度までの成果の続きとして指摘した。 ②については、『殿暦』における仮名交じり表記使用の継時的変化について前年度学会発表した内容を論文化した。また、『殿暦』に関するものとして、藤原基平らによる鎌倉期古写本で用いられる仮名を精査し、藤原忠実自筆原本での表記を保存する書写者は平仮名を、その傾向のあまりない書写者は片仮名を多く用いている様相が確認できること、この異なりが漢字片仮名交じり文が成立・浸透してゆく時代状況を反映しているとみられることを指摘した。 ③に関するものとしては、830年に加点された訓点資料である西大寺本『金光明最勝王経』平安初期点での助辞の加点状況(実際に読むか不読とするか)の在り方が、この後ほどなく成立する古記録における助辞の用法に影響を与えている事例として「於」の例を指摘した。 「研究実施計画」に記した「(1)平安時代後半期古記録の語彙・語法などの関する各事例についての記述」は上記のそれぞれの研究で果たせた。「(2)平安時代後半期記録語の総論的記述」は到達が難しかったが、平安古記録における仮名交じり表記の展開について総論的視点を示すことができた。
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