研究課題/領域番号 |
19K23113
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研究機関 | 大妻女子大学 |
研究代表者 |
関本 紀子 大妻女子大学, 文学部, 講師 (90847237)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | ベトナム / 度量衡 / 植民地 / 社会経済史 |
研究実績の概要 |
本研究は、フランスによるベトナム植民地統治の実態、植民地期ベトナムの社会構造や地域性について、度量衡(計量器、計量単位)の観点から分析・解明するものである。本研究では、これまで研究対象としてきたベトナム北部の度量衡の事例および研究手法に基づきながら、対象を中南部へ広げることも大きな目的の一つである。さらに、植民地期に見られた度量衡運用の地域差が現在にも引き継がれていることが、最近の申請者による調査・研究で明らかになってきている。こうした現代の視点から植民地の地域性を再検討するため、北部ハノイ、および南部ホーチミンにおいて現地調査も行うことを予定していた。 昨年度の研究成果としては、まず第一に、2020年2月にベトナム・ハノイで行った現地調査が挙げられる。ベトナムにおける伝統的度量衡単位及び計量器を明らかにするため、ハノイ国家大学ベトナム学・科学発展院の協力を得て、アンケート調査(教職員、学生本人とその祖父母、両親の国際単位系以外の慣習的度量衡の使用について世代間調査)を行った。アンケート調査結果のみならず、大学教員・研究員からベトナム人向けのアンケート調査票作成方法、ベトナム度量衡の地域差とその調査に関する助言など、今後の調査を効果的に進める上で有益な情報提供を得られた。 植民地期の度量衡からみる社会構造・地域性については、本研究では米穀計量単位以外の産品の単位(塩、アヘン、酒などの政府専売制産品など)についてデータ整理・分析を行うことも予定していた。しかし日本においては、植民地期ベトナムの専売制の産品に関する研究が少ないため、東亜同文会関係の刊行物・資料を対象に仏領インドシナのアヘンについての基礎研究を進め、度量衡からのアヘン研究への研究土台を築いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ベトナム・ハノイの現地調査に関しては、新型肺炎対策の一環として、原則国公立の教育機関などは休校・休業となっており、また日本人と接触することを避ける傾向があったため、当初の規模でのアンケート調査を行うことが難しく、限られた可能性の中で、度重なる予定変更の中での調査となった。ベトナムの中南部における植民地統治の特徴・独自性について、各省の度量衡統一政策に関わる行政文書を用いて明らかにする予定であったが、資料が保存されているベトナム国家第一文書館(在ハノイ)での資料収集も、上記の調査状況の影響で行うことが出来なかった。 「研究実績の概要」でも言及したが、植民地期の社会経済構造・地域性については、これまでに収集した各省月別公設市場価格表を使用し、北・中・南部の地域性を、行政区画の枠を超えて客観的に比較・検討することを目指し、本研究では米穀計量単位以外の産品の単位(塩、アヘン、酒などの政府専売制産品など)についてデータ整理・分析を行う予定であった。しかし、先行研究が少ないこともあり、予定していたデータ整理・分析の前に基礎研究を行う必要を感じ、まずアヘンについての周辺の知見を論文にまとめた。そのため、データ整理などの作業が本格的に進められていない状況にある。 しかしながら、ベトナム現地調査においては期待した以上に今後の調査の指針となる有益な情報を得ることが出来、また植民地研究上重要な専売制のアヘンに関しても、日本国内の未開拓資料(東亜同文会関係の資料)から研究を進めることが出来たことは評価できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、昨年度の研究成果および提出済みの「研究実施計画」を踏まえて、①ベトナムにおける現地調査の継続的な実施(ハノイ、ホーチミンの大学でのアンケート調査)、②フランス植民地の中でのベトナム植民地統治の特徴・独自性およびベトナム中部、南部の植民地度量衡行政について明らかにするため、フランス国立図書館(在パリ)、海外文書館(archives nationales d'outre-mer、在エクサンプロヴァンス)、ベトナム国家第一文書館(在ハノイ)、第二文書館(在ホーチミン)および第四文書館(在ダラット)などにおける資料調査・収集、③各省月別公設市場価格表における度量衡のデータ整理・分析の継続、を行う予定である。 しかしながら、新型肺炎流行により海外渡航、在外調査が以前と同様に実施できるかどうかは現状では判断できない。また、データ整理・分析も量も大量であり、内容も手書きも含まれ読解が困難な資料を扱うため、複数の研究者、大学院生などに作業を依頼し、大学の研究室などに集まり、不明点はその都度互いに確認しあいながら行うのが最も効率的で、理想的である。しかしそうしたやり方も変更を考えなくてはならず、作業効率に影響が生じる可能性が高い。こうした課題については、状況に応じて対応できる方法を模索しながら、出来る範囲のことを随時進めていく。 上記のフランス、ベトナムにおける資料収集、現地調査は、大学授業休業期間中に、現地との調整も踏まえた上で行う。また、順次得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、第一に、ベトナムへの調査費用が、航空券代、宿泊費ともに予想していた額よりも低い経費で抑えられたことがある。第二に、「現在までの進捗状況」でも述べた通り、各省月別公設市場価格表のデータ整理・分析が予定より遅れており、それに伴う必要な人件費(謝金)の支出がなかったことである。使用計画としては、昨年度行えなかったデータ整理・分析に使用する他、今年に実施を予定している在外調査時における費用(ベトナムでのアンケート調査実施に伴うベトナム人専門家・大学スタッフへの謝金など)として使用していく予定である。
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