研究課題/領域番号 |
19K23113
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研究機関 | 大妻女子大学 |
研究代表者 |
関本 紀子 大妻女子大学, 文学部, 講師 (90847237)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | ベトナム / 度量衡 / 植民地 / 社会経済史 |
研究実績の概要 |
本研究は、フランスによるベトナム植民地統治の実態、植民地期ベトナムの社会構造や地域性について、度量衡(計量器、計量単位)の観点から分析・解明するものである。2021年度は、2020年度に引き続き海外渡航が難しい状況が続き、文献資料調査を含む現地調査を行うことができなかった。 その中で、2020年度に行っていた仏領インドシナのアヘン研究(政府専売制産品の度量衡研究の導入として必要)の成果「フランス領インドシナのアヘン」(p.56-72)を収録した『アヘンからよむアジア史』(勉誠出版)が出版された。 また、フランス植民地時代以前の度量衡制度を明らかにする研究も進めている。この研究により植民地統治による変化が、前時代と比較することでより明確に分析することが可能となる。具体的には、フランス人宣教師が1800年代に編纂した辞書、Taberd, J. L. によるDictionarium anamitico-latinum、Huinh Tinh Paulus CuaによるDictionnaire annamite(大南國音字彙)、およびベトナム人官僚によって同じく1800年代に編纂された辞典『日用常談』と『大南国語』を対象に、その中で記載がみられる度量衡関連の用語とその解説を収集し、整理した上で類似点、相違点、変遷などを分析・検討している。さらには、外国人である宣教師とベトナム人の文人官僚によって、度量衡の単位、計量器がどのように把握され、紹介されていたか、それらを重ね合わせることでそれぞれの地域社会への理解の深度や度量衡に対する関心の深さ、あるいは低さが明らかにできる。この成果は、2022年3月11日、日本計量史学会総会後に発表することが決まっていたが、新型コロナ感染症感染拡大により2022年夏に延期されることとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は、2020年度と同様海外渡航が難しい状況であったため、当初予定していたフランス、ベトナムでの文献資料収集・現地調査が実行できていない。また、昨年度の報告書でも記載した通り、共同作業によってしか進められない資料整理の作業(1890年代から1910年代頃作成の手書き文書の解読、翻訳、整理のため、経験者が同席し、記述(字体)が不明瞭な点、その他不明点などをその都度確認・解読する必要があるため)も、密を避ける必要があるため叶わなかった。上記2点が、当研究が遅れている最大の理由である。 また、2020年度ほどではないにしろ、2021年度も大学での授業、業務が対面、オンラインなど形式の変更が頻繁にあったこと、不透明な状況で臨機応変な対応を常に求められていたことも仕事量の増加につながり、研究時間の確保が通常より難しい状況であることは確かである。 一方で、フランス植民地期ベトナム度量衡研究の周辺の研究は、こうした状況下でも利用できる文献・資料などに依拠し、進めることができている(本報告書5「研究実施の概要、研究成果について」参照)。また、これらの研究はある程度時間をかけないとできない研究であるため、昨今の調査に出られない状況がよい機会となったと考えることもできる。2020年度、2021年度の研究により得られた成果は、今後予定している在外調査によって行う研究の貴重な傍証となるものであり、その意味でも本研究はある程度の進展はあったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は今まで実現できずにいるベトナム、およびフランスでの調査を可能であれば順次行っていきたい。しかしながら、新型コロナ感染症の感染拡大状況が日本、ベトナムともに先が読めない状況であり、事前に計画を立て、現地と調整することが困難である。またロシアのウクライナ侵攻以降、ヨーロッパへの渡航も様々な制約が新たに加わり、難しい状況となっている。 そこで、当初の予定よりもより短期でできる在外調査計画を改めて練り直し、2022年度後期に状況を見ながら大学の冬休み、あるいは春休みに実行できるよう準備を進めていきたい。具体的には、国際情勢と予算残高も考慮し、フランス調査よりベトナム調査を優先して考えていく。ベトナム調査においても、新型コロナ感染症の感染状況によっては現地での移動に制限がかけられる可能性も高く、また外国人の訪問を好まない状況も踏まえて、農村部や近郊都市での調査は機会が得られれば、という条件下で行いたい。従って、今年度はベトナム首都ハノイ、あるいは南部中心都市ホーチミン市において、国家図書館、国家第一、第二文書館などでの資料収集を中心に行いたい。 ベトナム調査が難しい状況も続くことを想定し、日本国内でも出来る研究の比重を高めて取り組んでいきたい。特にこれまで行ってきた計量単位、計量器に関するインタビュー調査の内容を整理し、調査結果をまとめていく。それと同時に、現代の視点から改めて度量衡研究、植民地研究の今後の方向性を検討していきたい。また、引き続きオンラインなどを活用し、ベトナム・ハノイ国家大学ベトナム学・科学発展院の研究者・スタッフと連絡を取り合い、調査の実現可能性や現状でできる研究の方法論を検討していく。得られた成果は、順次発表していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究における助成金の主な使用目的は、ベトナムやフランスにおける現地調査および文献・資料収集を行うためであったが、新型コロナ感染症の感染拡大により海外渡航、海外調査ができなかったこと、こうした状況を受け科研費補助事業期間の再延長が認められるとの情報も入り、次年度に海外調査を行うことができる可能性も考慮し、助成金の使用を控えたことが、次年度使用額が生じた理由である。 今後の使用計画については、今年度も国際情勢や新型コロナ感染症の感染状況が不透明であり、当初予定していたフランスやベトナムでの調査が難しいと考えられるため、国内でできる研究の比重を高めていきたい。これまでの研究で蓄積してきた現地調査のデータ(インタビュー調査、アンケート調査や収集した文献資料など)の整理、分析を中心に進め、状況が許すようであればベトナムでの文献・資料収集も適宜行っていきたい。以上の調査、作業に必要となる人件費(翻訳、テープ起こしなど)などの費用、在外調査にかかる費用などに助成金を使用する予定である。
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