研究課題/領域番号 |
19K23113
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研究機関 | 大妻女子大学 |
研究代表者 |
関本 紀子 大妻女子大学, 文学部, 講師 (90847237)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2024-03-31
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キーワード | ベトナム / 度量衡 / 植民地 / 社会経済史 / 計量 |
研究実績の概要 |
本研究は、フランスによるベトナム植民地統治の実態、植民地期ベトナムの社会構造や地域性について、度量衡(計量器、計量単位)の観点から分析・解明するものである。2022年度は、3年ぶりに12月25日から1月1日までの1週間ベトナム調査を行うことができた。3年ぶりということもあり、受け入れ先のハノイ国家大学ベトナム研究・科学発展院において調査時の現地サポートを行ってくれているスタッフと顔を合わせての打ち合わせ(現在の状況や今後の研究の方向性)を行うことができた。現地では、特に初等教育における度量衡教育の資料を収集した。数年前に国定教科書の法規が改正され従来国営の出版社のみが許可されていた教科書の発行が4社の出版社に拡大されたため、ハノイ国家大学のスタッフ(Do Van Kien氏)にそれら教科書が購入できる場所の調査・同行および購入補助を依頼し、それらの一部を購入することができた。また、歴史的な変遷を考察するため、ベトナム国家図書館において歴代の初等教育の国定教科書(主に1980年代)を閲覧した。その他新たに出版されたアヘンに関する文献なども現地書店で購入することができた。 これまでベトナム現地調査時に行ったインタビュー録音のテープ起こしを行ってもらい、現地調査の内容をまとめる作業を進めている。昨年度の報告書でも言及した、フランス植民地時代以前の度量衡制度を明らかにする研究も進めている。昨年度調査した1800年代に宣教師が編纂した辞書およびベトナム人官僚によって編纂された1800年代の辞書に加えて、2022年度12月のベトナム調査で入手できた『大南國音字彙』(ベトナム人自身による最古の辞書・南部の語彙を収録)も対象に加えて検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度も、2020年度、2021年度と同様、当初は海外渡航の予定を立てることが難しい状況が長く続き、長期調査が可能な夏季休業中もコロナ感染が再拡大したため、ベトナム調査を断念した。また、これまでの報告書でも報告した共同作業が必要な作業(1890年代から1910年代頃作成の手書き文書の解読、翻訳、整理など)も、密を避けるため行うことができなかった。大学内でも教務委員などの委員会での業務が多忙を極め、研究時間の確保が難しい状況であった。 一方で、上記(本報告書5「研究実施の概要、研究成果について」参照)で言及した現地でのインタビュー調査のテープ起こしや、古辞書の中にみられる計量単位についての研究は順調に進んでおり、内容の一部は2022年3月20日に日本計量会館で行われた日本計量史学会特別講演で報告することができた。古辞書を使った研究の成果は、2023年度中に日本計量史学会の方へ投稿予定である。 2022年度に行ったベトナム国家図書館での1980年代の教科書の中の計量単位、計量についての記述も、ある程度の事例を収集することができた。現在の教科書との比較も行い、教育史の中における計量単位、計量方法の記述の変遷から、ベトナム社会の変化も読み解くことを目指し、その整理作業も進めている。 以上から、当初の計画通りに進んでいない面がある一方で、当初考えていなかった研究の広がりも見られることから、現在までの進捗状況を「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は引き続きこれまでの研究成果をまとめる作業を進めると同時に、ベトナム調査を中心に行っていく予定である。ロシアのウクライナ侵攻以来、ヨーロッパの情勢も不安定であるため、当初予定していたフランスでの調査は、状況が許せば行う。 本研究は植民地期を対象としているが、現在の事例から様々な地域・歴史の背景を読み解くことで植民地期の理解に役立つことも多いため、時代・時期をあまり限定せず、幅広く度量衡、計量に関しての調査を進めていく。昨年度のベトナム調査では、ベトナム度量衡院の専門家にも面会を行う予定にしていたが、日本が新型コロナウィルス感染第8波に見舞われていた状況を踏まえ、大学以外の関係者との面談は見送った。そのため、今年度はそうしたベトナムにおける度量衡関係機関での専門家との面会も実現させていきたい。また、昨年度のハノイ国家大学での調査で行えなかった1980年代以前の教科書の中の度量衡の事例の収集を継続して行いたい。可能であれば、農村部や近郊都市での調査や、地域性を捉えるため南部ホーチミン市においても聞き取り調査、ホーチミン市図書館、国立国家第二文書館などでの文献調査も実現できるよう準備していく。ホーチミン市には、ベトナム最大シェアを誇り、ISOも取得し多くの国への輸出も成功させている計量器メーカー「ニョン・ホア(Nhon Hoa)」があるため、可能であればそうした計量器製造に関連する企業へのコンタクト・インタビューなどを試みたい。 得られた成果は、順次発表していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度も新型コロナウィルス感染拡大が継続しており、長期の海外調査が実現できなかったことが主な理由である。2023年度は、こうした状況も世界的に落ち着きを見せており、海外での調査もコロナ禍前の状況に戻ることを想定し、ベトナムでの調査を中心に使用していきたい。当初はフランスでの調査も計画に入っていたが、ロシアとウクライナ情勢もあり、また残金との関係から、現在のところベトナムでの調査を中心に考えている。 ベトナムにおける調査の概要は本報告書「8.今後の研究の推進方策」でも述べたが、ハノイ、ホーチミン市を中心に文献資料収集と農村部・都市近郊部での調査、度量衡関係専門機関や計量器メーカーでのインタビューなどを考えており、できるところから実行していきたい。
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