研究実績の概要 |
本研究は、フランスによるベトナム植民地統治の実態、植民地期ベトナムの社会構造や地域性について、度量衡(計量器、計量単位)の観点から分析・解明するものである。 2023年度は、ここ数年間取り組んできたベトナム古辞書の中の計量単位の調査を論文としてまとめ(「ベトナムの古辞書にみえる度量衡関連語彙」)、日本計量史学会発行の『計量史研究』Vol.45, No.54に掲載した。外国人宣教師によって編纂された辞書3部(発行年の範囲1651―1838年)およびベトナム人文人官僚・行政官による辞書3部4冊(発行年の範囲1827―1896年)を対象とし、その中の計量単位等を丹念に収集し、それらを比較・検討したものである。植民地期以前の辞書も対象とすることで、これまで明らかとなった植民地期のベトナムの社会構造、地域性がいつ頃から確認されるものか、それが継承・維持されたのかについて新たな知見を得られた。 2023年8月にはベトナム国家図書館(ハノイ)およびホーチミン市総合社会科学図書館にて、度量衡関係の資料収集を行った。ベトナム国家図書館では、主に1960年以降の度量衡法規(国全体だけではなく、各省における規定の資料)や、民間において常用されていた計量器・計量単位についての文献を中心に閲覧した。ホーチミン市総合社会科学図書館においては、『度量衡品質標準』雑誌のバックナンバーを中心に閲覧した。これらの資料は植民地期後のものであるが、植民地期における民間の度量衡運用の実態など資料が限られる中で、後世の資料からさかのぼって植民地期末の度量衡の状況を捉える傍証となろう。 また、本研究では植民地期ベトナムの社会構造を解明するため、対象を物価史研究などにも広げることも想定していた。本年度は、物価および社会構造に密接に関わる交通ネットワークについての研究も、これまで長年かけて収集した資料を基にまとめた。
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