研究課題/領域番号 |
19K23116
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
石井 友菜 早稲田大学, 會津八一記念博物館, 助手 (00849755)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 腕輪形石製品 / 材質 / 製作技術 / 穿孔技術 |
研究実績の概要 |
腕輪形石製品とは、碧玉や緑色凝灰岩などを素材とする古墳時代前期の主要な副葬品の一種で、鍬形石・車輪石・石釧の3つに大別される。これらの器物の生産・流通体制については様々な説が提唱されており、近年の研究ではこの解明に向けて、形態や材質・製作技術などの諸特徴の細分化によって生産時の単位を抽出するという研究手法が進められている。本研究でもこうした分析視点が有効と考え、資料数が多く分布域も広い石釧を中心に実見調査を行い、材質や製作技術の分析を進めている。 2019年度は畿内周辺域の遺跡から出土した腕輪形石製品を対象とし、各地の資料所蔵機関で実見調査を進めてきた。調査に際しては3Dスキャナーおよびデジタルカメラを用いて、資料の立体形状の計測・観察、および製作技術や材質などの情報の取得を進めてきた。 この結果、材質と形態・製作技術の諸特徴が一致する資料群が複数見出された。これらは一古墳内であっても、異なる材質間には形態や製作技術の傾向差が認められ、同じ材質間では、遠隔地間にある古墳間でも形態や製作技術に共通性がみられる。実見調査したものに限られるものの、材質間に現れる形態や製作技術の傾向差が広域の古墳間で共通している点は、腕輪形石製品の生産集団や流通体制を考究する上で重要な情報と考える。 また本研究では製作技術研究の一視点として、穿孔技術に着目している。腕輪形石製品に通有の内孔は、形態や装飾に差異が大きく比較の難しい複数器種間を、等質に比較できる可能性のある属性であり、この部位の製作技術(穿孔技術)の解明は重要な意義をもつ。本研究では、3Dデータと画像解析ソフトを用いた石釧の内孔形状の定量分析を実施し、この方法が穿孔技術の研究に有効との見通しを得た。今後は、引き続き資料の実見観察・計測を進め、腕輪形石製品の生産・流通体制について考察を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度の対象に設定した資料の実見観察・計測調査はほぼ予定通り終了し、現在は調査で得られたデータの分析作業を進めている。とくに、3Dデータと画像解析ソフトを用いた石釧の内孔形状の定量分析の方法を考案し、この方法が腕輪形石製品の生産・流通体制の研究において新たな情報をもたらすものとの見通しを得ている。この点では、本研究はおおむね順調に進展している。 ただ、年度末より始まった新型コロナウイルス感染症の拡大により、いくつかの資料実見調査を中止した。またこの状況は現在まで続いており、今後もしばらくは調査ができない状況が継続すると見込まれる。本研究はその性質上、資料を実見観察し計測する作業が不可欠であり、今後の調査が制限されることも含め、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、今後は畿内以西の遺跡から出土した腕輪形石製品の実見調査に当てる。2019年度の成果として、材質や製作技術に着目した資料の細分、および三次元計測を用いた内孔形状の定量分析といった手法が、当初の目的である腕輪形石製品の生産・流通体制の復原に対し有効という見通しを得た。これをうけて2020年度は、引き続き同様の内容で計測・撮影を行い、分析資料の拡充を行う。こうして得られたデータをもとに、腕輪形石製品がどのように生産され、どのように各地の古墳へ納められるに至ったのかを考察する予定である。 ただし、新型コロナウイルス感染症の拡大が続く現在、資料所蔵機関へ赴き、実見調査をすることが難しい状態である。現時点では、当初予定していたスケジュールを組み換え、年度前半を既計測・実見資料の解析に当て、年度後半から資料の実見調査を再開する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大や資料所蔵機関との日程調整等の諸事情により、予定していた調査の実施を中止したため次年度使用額が生じた。これについては、翌年度分の助成金と合わせて再度調査を実施する予定である。
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