初期農耕集団では食物の栽培・加工技術の未熟さに由来する低栄養やストレスの影響に由来する痕跡があらわれることが知られている。それらを分類すると、低栄養の影響を示す特徴や食性変化を示す特徴、生業や生活環境の変化を示す病理痕跡の3つに分類できる。本研究では縄文時代人骨におけるこれらの病理痕跡の骨考古学的な調査により、早期から晩期へと植物への依存度が高まることで縄文集団にどのような身体的影響が表れるのかを明らかにすることを目的としている。 今年度は、前年度選定した調査対象の人骨資料について、調査しデータを収集した。調査したのは轟貝塚、姥山貝塚、加曾利貝塚、三貫地貝塚から出土した縄文人骨で、前期6個体、中期11個体、後期13個体、晩期6個体の計36個体である。放射性炭素年代測定により帰属時期が確認された個体のみを使用してた。調査した項目は、頭蓋冠炎症痕(Porotic Hyperostosis)、クリブラ・オルビタリア(Cribra Orbitalia)、エナメル質減形成(Enamel hypoplasia)、四肢骨幹の関節炎と骨膜炎(Osteoperiostitis)である。各項目の有無や範囲、進行度はRinaldo et al.(2019)Steckel et al. (2011)により評価し、スコアへ変換して統計分析を行った。統計分析は頻度差はカイ二乗検定により、スコアの差はクラスカル・ウォリス検定により行った。 結果、縄文人のストレスマーカーの頻度と進行度について、時期的変化の傾向は認められたが、統計的な有意差が検出されなかった。
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